BIOHAZARD BREAKDOWN 〜bygone〜 第三章
カチッ
MP5の弾丸が切れた。ルイは銃を逆手に持ち直し、ストック部分でゾンビの頭部を殴る。その動きはまるで機械のように正確で、容赦がない。
グキリ、と骨が折れ、ゾンビは動かなくなった。
そのままルイは階段に駆け出す。
階段の前に立ちふさがっていたゾンビをストックで殴り殺すと、銃を捨てた。弾が切れた銃はすでに銃器ではなく鈍器であり、それを使うには銃を振り回す必要がある。狭い階段では使えそうにない。
腰のベレッタを取り出し、一気に階段を駆け下りる。前にゾンビがいる可能性もあるが、そんなことは気にも留めていない。今彼の心を占めているのは、一刻も早く武器庫にたどり着くこと、それだけだった。
「まさか、ハワイで受けた民間人用SWATの訓練プログラムが、こんなところで役に立つとはな・・・・・・」
本当に、人生何が役に立つかわからないもんだ。
皮肉気につぶやき、階段を降り続ける。
それにしても、やけに階段が長い気がする。気のせいだろうか。それは主観と切迫感による錯覚かもしれないし、実際に長いのかもしれない。
辺りは非常電力のおかげでわずかに光がともっているが、それでもかなり暗い。そのせいで、感覚が曖昧になっているのだろう。
どれほど降りただろうか。しばらくして、ルイの前に扉が立ちふさがった。
扉に書かれていた文字は、B3F。地下三階への入り口だ。
「やった・・・・・・」
小さく、喚起の声を上げるルイ。その肩に、透明な液体が垂れ落ちる。
「え・・・・・・?」
頭上を見上げるルイ。暗闇にまぎれ、やけに舌の長い4足歩行の化け物が、彼の視界に入った。
シャアアァァァァァァ・・・・・
「ターゲットが移動を開始。二手に分かれた模様です」
「封鎖はどうした?」
男が、いらだたしげに言う。自分の計算が違ったことに苛立っているのだろう。
「現在の封鎖完了エリアは全体の90パーセントです。非常階段は後回しになっていたので、おそらくその隙に潜入したものと。現在、片方は地下3階に。もう片方は、エレベーターを使って所定のエリアに向かっています」
「目的は・・・・・・」
「おそらく、地下3階セクションBにある武器庫かと。あそこには、未回収の武器・兵器が保管されています。装備と一旦整え、合流するつもりでしょう」
「ふむ・・・・・・」
男は何か考えるそぶりを見せた。やがて、スクリーンのある光点に目を留める。
「実験体Ness・03か。使えるか?」
「一応、基礎的な命令は受け付けると思いますが・・・・・・」
それを聞き、男は満足げに頷いた。
「エレベーターを襲わせろ。地下3階で止まるようにするんだ」
「は?」
その言葉に、エドガーは不審げな表情を浮かべる。
「早くやれ。同時に、あれも起動させるんだ。地下3階で開放して、実験を開始しろ」
「まさか・・・・・・」
「手駒は残しておきたいからな。イレギュラーの存在、最後までたっぷりと使わせてもらおう」
「・・・・・・了解しました」
ガタン。
エレベーターの上に何か乗ったような音がしたのは、地下2階に差し掛かったときだった。
その音に、サイラスはびくつきながらも銃を上に向けた。すでにフロイドとデビッドは拳銃を構えながら、3人を誘導している。
「何かいるな・・・・・・」
フロイドがつぶやいた。それはサイラスにも分かる。そして、それは人間や、先ほどまで戦ったゾンビではないことも。
しかし、下手に発砲するわけには行かない。弾は残り少ないし、考えたくはないがルイが死んでしまったときのことも念頭に入れて弾丸をセーブしなければならない。
「地下4階に着くまで、後どれくらいかかるんだ?」
「約・・・・・・1分。非常電力ですから、短くてもそれくらいはかかります。それまで、化け物が何もしなければいいんですが・・・・・・」
焦燥感を含んだ声で、デビッドが言った。それを聞いて、上にいる化け物が1分も待つわけがない、とサイラスは思う。
ああ、何でこんなことになっちまったんだろう。直前で彼女に振られたことが原因か。こんな旅行の無料招待券なんか当てちまったのが原因だろうか。
くそっ。こんなことになるなんて分かってたら、絶対に来なかったのに。
そこまで考えて、彼は苦笑せずにはいられなかった。未来なんて誰にも分かりはしない。あの時、俺は無料招待券が当たるなんて思ってなかったし、それがこんな結果になるとは思いもよらなかった。
なあ、誰が考える?無料招待という名目の南の島への旅行券が地獄への切符になるなんて。誰が、飛行機が爆発するなんて考えた?誰が、宿泊先のホテルの人間がひとり残らず化け物になって・・・・・こんな怪しげな施設が地下にあるなんて思ってた?
なあ、教えてくれ。一体誰が、こんな事になるって予想できたんだ?
・・・・・・考えても無駄だ。
こんな状況に放り込まれちまった以上、ただでは帰る気はねえ。誰の仕業か突き止めて、気の済むまで殴ってやる。
だがよ。今は、生き延びることが最優先だ。それから先のことは、後で考えればいい。
ともかく、今出来ることは、化け物に銃弾を叩き込んで生き延びる、って事だけだ。
確かに、射撃は得意じゃない。それどころか、銃を撃ったのなんて今日が初めてだ。素人もいいところで、こんな風に前へ出てお姫様を守る騎士みたいに戦う役目は性にあってない。むしろ、後ろで縮こまっていたいくらいだ。
だけど、やるしかないんだ。これはゲームの世界でもテレビの中でもない。ゲームオーバーになってもリセットできない。セーブも出来ない。紛れもない、現実だ。ヒーローも来てくれない。自分でやるしかない。
なら・・・・・・やってやろうじゃねえか。
そういえば・・・・・と思い出す。別れる時に彼女は、サイラスのことをいざというときの根性がないやつ、といった。
多分、そうなのだろう。自分はいつも肝心なときに逃げたりしてきた。そこが、嫌われる所以か。
なら、その根性を叩きなおすチャンスじゃないか。
自らに託された武器を握り締め、頭上に向けつつ、サイラスは決意した。
絶対に生きて帰る、と。
ダン!
最後の弾丸を吐き出し、焼けた薬莢を排出して、化け物の口内でベレッタは沈黙した。
スライドが後退し、スライドストップがかかって固定される。発射された9ミリパラベラム弾はリッカーの口腔を抜けて脳髄で弾け、後頭部を突き抜けて肉片を撒き散らす。
「うわ・・・・・・」
なんとも凄惨な光景だ。思わず嘔吐しそうになる。
腕に巻きついていた舌を剥がし、ジャケットで腕を拭いた。傷などはついていないが、なんだか見ているだけで気持ち悪くなってくる光景だ。
口の中に納まったままの拳銃は、使う気にはなれない。涎と血となんだかよく分からない肉片と粘液でべとべとになった弾の切れた銃を使いたがる人間は、余りいないだろう。
起き上がって、体の各部を確認する。腕、機能に異常なし。怪我もなし。足も同様。頭、胴体も。
「運がよかった・・・・・・」
この化け物が飛び掛ってきたとき、とっさにルイは扉を開け、中に飛んでいた。同時にリッカーの舌が彼の腕に巻きつき、中でリッカーの口内に銃口を突きつけて連続発砲。気づけば、弾が切れていた。
念のために軍用ナイフを腰から取り出し、警戒しつつ薄暗い廊下を歩く。幸いにもゾンビとは遭遇せず、『Weapon Room』と分かりやすく書かれた場所を見つけた。
「電子ロックか・・・・・・」
扉は、カードキー式の電子ロックで施錠されていた。とはいえ、今は電気が通っておらず、ランプも点灯していない。
扉は、薄い金属製の扉だった。自動式で横に開くタイプだ。
「何とか、こじ開けられそうだな・・・・・・」
隙間にナイフを差し込み、無理やりわずかな隙間をこしらえる。ナイフの刃が折れ曲がるが、気にしない。
そのまま指を挟みこみ、強引に左右に開かせる。ある程度まで開けば後は簡単で、身体全体を使って扉を開けばいいだけだ。
「いてて・・・・・・」
無理やりこじ開けたせいで痛む指を振りつつ、ルイは横にあった電力供給ボタンを押した。
中にバッテリーが入っていたのだろうか。それとも、独自の電力供給システムがあるのだろうか。それは分からないが、ともかく、武器庫内でいっせいに電気がついた。
突如溢れるように視界に入った真っ白な明かりに、ルイは目を押さえる。
「うわ・・・・・・」
光に慣れて、目を空けたルイが見たのは、累々と積み重なる武器の山だった。
彼が知っているメジャーな住をはじめ、武器には統一性がない。拳銃や自動小銃をはじめ、中には、どうやって持ってきたのか疑問に思いたくなるようなものまであった。
「ナイフから戦車まで・・・・・・なんでもござれだな」
足元には、軍の特殊部隊が使っているコンバット・ナイフがあった。ほかにも、弾薬箱の上に無造作にロケット砲が置かれていたり、そこらの床に拳銃が整然と並べられていたかと思えば、その隣でライフルの部品が散乱しているといった有様だ。
「さすがに射撃場みたいにきれいに整理されてるとは思わなかったけど、まさかこれほどとはね・・・・・・」
今すぐ銃の山を漁ってそのすべてを気が済むまで撃ちまくりたいという衝動を抑えながら、ルイは近くにあった大型のデイパックを幾つか取った。
汚れた防弾ベストを脱ぎ、そこらにあった整備用のタオルで腕を拭く。壁にかけられていた最新型のボディ・アーマーをとると、それを身体につけた。
次に、武器の選別。ゾンビ相手には威力の高い武器がいるが、余り高過ぎても反動を抑えられないので、そこらを念頭において選ぶことにした。
並べられていた銃器の山から、威力も高く、反動もまあまあな銃を手にとる。コルト・ガバメント自動拳銃。重量はそれなりにあるが、重いというほどでもない。取りあえず、これを4挺。
次に、バックアップ用拳銃。これんびは小型のリボルバーを選んだ。ポケットにも入るコンパクトサイズで、5発の弾丸が入っている。
最後に、主力火器。これは、全員共通でアサルトライフルを選ぶことにした。室内戦を考慮して、銃身の短いカービン銃という銃を選ぶ。
それと、ゾンビ相手に相性のよさそうな銃、ショットガンは必須だろう。銃身の短い室内用のショットガンを二挺ほど見つけると、それをバッグの中に放り込む。それと、ショットシェルの入った弾帯も。弾帯に、30発くらいははいっているだろう。
予備弾倉をあちこちにくくり付け、銃と弾倉をバッグに放り込む。これで、バッグのひとつが埋まった。
もうひとつのバッグに、手榴弾をはじめとした爆発物を大量に入れる。グレネードランチャーやプラスチック爆弾はもちろん、対戦車用のロケット砲も放り込む。なんに使うのかは分からないが、万が一の為だ。まあ、使う機会は無いと思うが。
「戦車にでも乗っていくかな・・・・・・」
そういって、目の前の戦車を見た。
M1エイブラムス。強力な戦車砲と最新式の電子装置を備えたアメリカ製の大型戦車で、どう考えてもここに持って来れそうにない。どうやって持ってきたのだろうか?
取り付けられている機銃でもぶん取って持っていこうかと思ったが、やめておく。人間がもてる重さではないし、撃てる銃ではない。
仕方ないので、その横に立てかけられていた軽機関銃をとる。かなりの重量があるが、スリングを肩から下げれば問題ない。
幸い、今もっているライフルと弾倉が共有できる。重いので振り回したりは出来ないが、初速が速いし、連射速度も速いので威力は高い。
取りあえず、そばにあった装弾数200発のボックス型マガジンをとり、銃に装填。ずっしりと重い機関銃を両手で持ち、スリングベルトを肩からかける。
・・・・・・とてつもなく重い。
機関銃だけで、10キロ弱。左右のバッグに入っている銃と弾丸、爆弾の山で、おそらく20キロくらいか。疲労した身体にはつらい。というか、
「・・・・・・死にそうだ。」
ずっしりと重い各種装備をぶら下げ、ルイは歩く。だが、扉から出ようとしたとき、突如悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
おそらく、エレベーター付近だ。同時に何発か銃声が聞こえ、やがて止んだ。
「もしかして・・・・・・」
何かあって、エレベーターが3階で止まったのか?ただの電力低下ならばいい。だが、もし化け物に襲われているんだとしたら・・・・・・
疲れた身体に鞭打って、ルイは走った。焦燥感に包まれながら。
To be continued.