BIOHAZARD BREAKDOWN 〜bygone〜 第二章

「状況は?」
「爆破時刻が予定よりも少し遅くセットされていました。どうやら、生存者がいる模様です」
 そこは、まるで軍の作戦司令室のような部屋だった。その中には、二人の男がいる。
「残ったのは?」
「衛星によると、約20人。やつらの情報員も生きているようです。すでに装甲バスは退避させ、生存者は内部に誘導しました」
「やはりすでにバイオハザードが?」
「はい。現在島全体の汚染レベルはAです。いまの所実験体の脱走は見受けられませんが、地上の電力のシャットダウンの影響で島内に設置したカメラが幾つかダウンしています」
「第3分隊はどうした?しばらく前から通信が途切れている」
「分かりません。さきほどから、こちらからの通信に対する返事がまったくないので・・・・・・おそらく、全滅した可能性が高いかと・・・・・・」
 ここは完全に独自の機能で動いており、安全地帯だ。だが、外は地獄。生きて帰れる保証はない。
 男はカメラを幾つか操作した。そして、顔を上げる。
「分かった。第4分隊を行かせろ。念のため、全員にガスマスクを着用させ、対C装備で上層階の制圧にあたれ。メイン電源が回復しない事には脱出もおぼつかない。あのいまいましいゾンビどもの掃討もやらせておけ。あれさえいなくなれば、感染することもあるまい」
 それだけ言うと、男は部屋から出て行った。残された白衣の男はその後姿が十分に遠ざかったのを見て、通信機能を立ち上げた。
「こちら0-2Z1。感度良好、作戦本部と接続させろ。・・・・・・もしもし、私です。・・・・・・ええ、分かりました。その件はこちらで処理します。ご心配なく」

 警備室の扉を蹴破り、奥の通路へと突入する。
 ルイとサイラスが一番前に立って正面の警戒。フロイドは後方につき、その前には女性三人。デビッドはルイとサイラスの援護につく。
「大丈夫だ。化け物はいない」
 ルイは敵がいないことを確認して安堵の息をつき、銃を下ろす。しかし、こんな事をこれから扉を開けるごとにやらなければならないとは。けっこうしんどい。
 ルイは通路全体を見回した。扉は三つあり、地図によれば二つが従業員用の部屋、残り一つが書斎へと続く扉になる。
「従業員用の部屋は見ておくか?」
 彼は皆に聞いた。
「俺は反対だ。何かいそうだぜ」
 サイラスが答える。確かに、居住区なのでゾンビがいても不思議ではない。
「たしかにそうだな。書斎に行こう」
 フロイドがそう言って、一行は再び前進を開始した。そんな中、エマは何となく上を見上げ、そこにあった監視カメラを見た。
「監視カメラ・・・・・・だよね・・・・・・?」  何の変哲もない、監視カメラだ。量販店などに防犯用に設置されるものとよく似ているような気もするが、彼女はそんなことは分からない。たふだ、なんとなくそのカメラのレンズが動いたような気がした。
 エマは瞬きしてもう一度カメラを見た。だが、カメラには何の動きもない。
「気のせいかな・・・・・・?」
 小さく呟く。
「どうかしたの?」
 後にいたリサが声をかけてきた。
「なんでもないよ。大丈夫」
 いつもの笑顔を向けて、何とかリサを安心させる。でも、その笑顔がどこか疲れたように見えるのはしょうがない事だった。
「そう。ならいいんだけど・・・・・・」
 リサは自分を心配してくれている。昔からそうだった。何かあった時はすぐにリサが守ってくれる。励ましてくれたり、共に笑ったり、泣いたり。リサはエマの憧れであり、かけがえのない親友だ。
「そういうリサこそ、大丈夫?」
「なに言ってるのよ。私は大丈夫だから」
 しかし、リサも不安なのだ。何しろこんな状況なんだから、自分の事ばかり言っていられない、とエマは自分を鼓舞し、勢いで前にいるサラに声をかけた。
「テイラーさん、大丈夫ですか?」
 彼女の言葉に、サラは一瞬おびえたように縮こまり、エマの方を向いた。やっぱりあの化物のことが気になるのであろうか。さっきから何処となくおびえた様子が抜けきらない。
「ええ、私なら大丈夫よ。きっと、ここから脱出できるわよ。あの人たちが守ってくれるし・・・・・・ね?」
 自らに再確認するように言って、少し疲れたような笑みを浮かべた。
「そうですよね。・・・・・・大丈夫よね」
 カチャ・・・・・・と音を立てて、ゆっくりと扉を開き、ルイが中を伺う。その様子を見て、彼女は改めて覚悟を決めた。
 意を決して、エマは新たな一歩を踏み出す。生きて帰るために。

 書斎の中にゾンビはいなかった。少なくとも、動いているゾンビは。
 だだっ広い部屋の奥にさびしく置かれている大きなデスク。デスクは本やパソコンで埋まっており、自殺したものらしき死体が見える。
 ドアの側には、全身に弾丸を撃ち込まれ、死んだゾンビが一体。いや、ゾンビになった時点ですでに死んでいるのだから、この場合死んだという表現は正しくない。ならば何というべきだ、といわれると困るが・・・・・・  その時、デビッドの後で小さく悲鳴が漏れた。誰かが悲鳴を洩らしたのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。
 ここにも、誰もいない。デビッドは拳銃を下ろし、引金から指を離す。
 書斎は本で埋め尽くされており、壁には本しかない。ぱっと見た限りでは・・・・・・いや、おそらくよほどじっくり探さないと隠し通路は見つからないだろう。
「ここのどこかに隠し通路がある、と。そういうことですか?」
「そういうことだろうな。手分けして探そう。俺はあのデスクを調べる。何か見つけたら言ってくれ」
 フロイドはそう言ってデスクに近づき、死体のポケットを漁る。予想通り、ポケットの中にカードキーがあった。身分は『主任研究員』。
 次にかろうじて電源が入っていたパソコンをいじる。機密ファイルにアクセスするためのパスワードはすでに入力されており、画面には遺伝子配合と超小型の精密機械に関する専門的な考察やT-ウイルスに関する情報が流れるように画面に現れている。
 遺伝子工学や機械工学に詳しくないと到底理解できないような内容をすっ飛ばし、目当ての情報を求めて冷静にコンピューターを操作する。目が画面を追い、次々と現れる情報を貪欲にむさぼる。
 その時、彼の視線が止まった。そこには、第一級機密事項を示すマークと厳重なセキュリティーがあった。しかし、彼はあっさりとセキュリティ・システムを無力化すると、極秘ファイルを開く。
 そこには、こう記されていた。

 ≪実験報告書≫

 『T』とAX-01タイプの融合実験を開始。実験開始後約20分で拒否反応が出る。『T』は暴走し、射殺。犠牲者は2名。AX-01の生体CPU化が不十分だったためと思われる。

 その後も、様々な実験内容がかかれている。それらは専門用語のオンパレードで、普通の人間が見てもまず理解できないような言語と数式が大量に記されている。フロイドはそれらを洩らさずに読みとり、一番最後の項目で彼の視線は止まった。

 ≪実験報告書・ファイル2≫

 『T』改良型とCX-19の融合実験開始。実験後数日間観察を続けるも、拒否反応なし。こちらからの指示を与えた結果、『T』は任務を完全に遂行。これによって、有機機械との合成による『T』の飛躍的な知能の増加、及びこちらの完全な制御化における事が証明された。本日1400時に所長に報告予定。

 事務的なレポートのような説明は、そこで途切れていた。しばらくカソールを動かすと、今度は日記のようなファイルに目を留めた。クリックして、ファイルを開封。

 6月12日

 こんな衝撃的な実験結果を提出したにもかかわらず、所長は相変わらず実験結果を本社に報告しようとしない。なぜだ?今まで報告しなかったのは、失敗ばかりを報告して自らの解任を恐れての事と理解できる。だが、これだけの結果を報告しないとは一体どういうことなのだろうか。報告すれば昇進は間違いないのに。

 6月18日

 いったいどういうことだ?私のカードキーでは外部との通信システムが使えない。これでは本部に報告すら出来ないではないか!  これは噂だが、近々この研究所は閉鎖されるらしい。だが、相変わらず『CX−19』の完成を報告する事は出来ない。所長は最近どこかに篭ったままめっきり姿を見せなくなり、代わりにあの眼鏡をかけた小柄な男が私たちに指示を下している。あいつは確か1ヶ月くらい前にここに派遣されてきた奴だ。
 このままでは私の未来はない。一刻も早く手を打たなければ。

 その後も日記は続いていた。だが、フロイドはそれらを飛ばし、肝心な部分だけを読み取る。

 7月16日

 恐れていた事が起きた。
 とうとう研究所は閉鎖され、アンブレラ本社から来た男たちが機材や資料をまとめている。
 だが、妙な事に所長の姿が見えない。あの男もだ。
 あの二人は一体何処へいったのだろうか。もしかしたら、地下4階のセクションAではないだろうか。あそこは完全に独自の機能で動いていて、専用のカードキーと指紋照合装置を突破しなければ中に入れない。ドアは分厚く、ミサイルを使っても破壊は不可能だ。
 だが、私のカードならばあのエリアに入ることができる。私はこれから、あの中に踏み込んでみるつもりだ。
 一応、念のために銃は持っていこう・・・・・・。

 7月19日

 何てことだ。
 荒唐無稽だ。無謀だ。あいつらが・・・・・・あいつらが、まさかあんな事を考えていたなんて。仮に成功したとして、その後はどうするつもりなんだ?消されるのがオチだ!
 昨日、ヘリポートに二機のヘリコプターが降り立った。ガトリング砲を備えた軍用ヘリで、30人近い兵士たちが降りてきたかと思うと、いきなり我々研究員達を殺し始めた。
 本社の保有する特殊部隊ではなかった。私もあの黒い奴らは何度か見たことがあるだけだが、奴らの装備、服装などからどういうやつらかは用意に見て取れた。
 傭兵だ。それも特に冷酷で、拷問や虐殺もいとわない連中だ。
 ああ、いま目の前の扉に穴があいた。もうすぐ突入してくるだろう。私は拷問され、殺される。だが、私はその前に自分で死ぬ事を選ぶだろう。
 だが、ただでは死なない。すでにT-ウイルスを島中にばらまいてある。これが私にできる、唯一の復讐・・・・・・

 それ以降は、意味のない記号が幾つか打ち出されているだけだった。おそらく、この時点で自殺したのだろう。
 フロイドはコンピューターから目を離すと、死体が握っている拳銃をもぎ取り、残弾を確認する。
「弾切れか・・・・・・」
 護身用のリボルバーに入っていた弾丸は全て空薬莢だった。これでは役に立たない。
 彼がパソコンに目を戻した時、その電源が突然落ちた。フロイドは慌てて起動させようとするが、出来ない。
「やられた!」
 ディスクに保管する事すら出来なかった。
 彼は電源コードを見た。奥にプラグの差込口があるが、そこに到達する前でコードは切られている。
「一体誰が・・・・・・」
 おそらく、俺がコンピューターから離れた隙に切ったんだ。一体誰が・・・・・・
 フロイドは辺りを見回す。特に大きな物音もしなかったので、犯人は走ったわけではない。おそらく犯人は近くにいるやつだ。
 最も近いところにいるのがルイ。電源コードの側で、あちこち本を抜き出しては何かないかを調べている。こっちの視線には全然気付いていないようだ。
 そして、その反対側にいるのがデビッド。彼は何かを探しているというより、本に気を取られているようだった。
「一体どっちが・・・・・・」
 フロイドは小さく呟いた。普通に見れば会ったばかりのデビッドが怪しい。こんな状況では素性など確認できるはずがない。だが、ルイの可能性がないとは言い切れない。元はといえばここに来るための旅行券を当てたのは彼だし、あの銃の扱い方はどう考えても素人の動きではない。幾らここ数年中を撃っていたからといて、あそこまで上達するのか・・・・・・?
だが、彼とは大学に入った時からの友人だ。まさかアンブレラの工作員という可能性は低いのでは・・・・・・?
 そこまで考えて、フロイドは首を振った。結論が出ない考えなど、無意味だ。
「あった!」
 突然大きな声が聞こえて、フロイドは我に返った。
「どうした?」
 なにやら本を持って叫んでいるエマの元へ行く。
「もしかしてこれじゃない?」
 彼女が本をどけた所には、カードリーダーとパスワードの入力装置があった。
 すぐに皆が集まり、ルイがそれを見ていった。
「たしかにあったようだが、カードキーとパスワードはどうするんだ?そんなものが一体何処に・・・・・・」
「どいてくれ」
 フロイドはそう言って、入力装置の前に立つ。先ほど入手したカードキーを挿入し、パスワードを打ち込む。
 ピッ、という電子音と共にランプが赤から緑へと変わり、ロックが外れて本棚が横にスライドする。そして、中から階段が現れた。
 皆は唖然としてフロイドを見た。
「このカードキーとパスワードの書いた紙があの男の死体にあったのさ。予想通り、ここで使えたようだな」
 とりあえずそう言って皆を納得させる。
「じゃあ、今度は俺が先頭につく。ルイ、最後尾を任せるぞ」
「ああ。分かった」
 奥は真っ暗だった。MP5のフラッシュライトをつけ、僅かな光を頼りに慎重に階段を降りる。
「もうすぐ地下1階に降りるはずだ。まずは通路を通って予備配電室に行こう。明かりがなきゃ何も見えない」
 やがて、金属製の扉が見えた。フロイドがカードキーを通すと、扉は自動で開く。
 フロイドとサイラスは銃を構えて前方を警戒。正面にゾンビ。数は6。
「右にも三体いやがる!」  サイラスが叫んだ。臭いでこちらに気付き、ゾンビが向かってくる。
 フロイドは正面の六体を担当。サイラスは右の三体。
 膝立ちの姿勢をとると、フロイドはMP5を発砲した。セミオートで脚を撃って先頭のゾンビの動きを止め、進撃を阻害する。そして、フルオートで胴体付近を中心に掃射。弾丸は貫通し、奥のゾンビに命中する。
 この距離と数ではいちいち個別に倒している時間はない。
 貫通力の高いフルメタルジャケット弾をくらった戦闘のゾンビは肉体の破壊により機能を停止した。後方のゾンビも貫通弾を浴び、動きを止めるか倒れ伏す。よろめいた所へ頭部へのバースト射撃。
 的確に、そして無慈悲にフロイドはゾンビを片付ける。とりあえず三体を倒した所で、フロイドは空になった弾倉を廃棄、新たなマガジンを取り出す。そこに、悲鳴が上がった。
 サイラスがゾンビに押し倒された。そのまま喉笛を食いちぎろうとするゾンビに向けて、フロイドは蹴りを放つ。
 グギャッ!
 ゾンビの頚骨はあっさりと折れ、首が吹っ飛びかける。サイラスはそのゾンビを突き飛ばし、腰を抜かして後じさりする。
 MP5に最後の弾倉を叩き込み、ゾンビに向けて発砲する。至近距離からのフルオート。弾倉内の弾丸はあっという間に底をつくが、そんなことに構っていられない。
「もたもたしてられないぞ!急げ!」
 後方でも連続した銃声が聞こえた。何処からきたのか、ゾンビの大群が降りてくる。ルイが応戦するものの、数が多すぎる。
 デビッドが何とか正面のゾンビを倒しきった。同時に彼の銃は弾切れを起こす。
「走れ!」
 暗闇の中、サイラスの腕を引っぱってフロイドは走った。肩から提げているMP5を右手で支え、明かりを確保する。
「くそっ!まだいるのか!」
 奥の通路から、新たに三体のゾンビ。フロイドはベレッタを発砲する。3発の弾丸は最も近いゾンビに命中した。
 階段の側では、まだ銃声が聞こえてくる。こっちに向かってくるライトの光が、彼らが生きている証だ。
 二体目のゾンビに狙いを定めようとして、フロイドは自分の銃を見た。
「こんな時に・・・・・・」
 スライドは途中で止まっていた。だが、マガジンの中にまだ弾丸が入っている。つまり、ジャムだ。
 ジャムとは、銃の作動不良の事をさす。この場合は排莢不良だった。薬莢が途中でスライドに挟まっている。
 これでは撃てないどころか、暴発を起こす危険性もある。フロイドは万が一のためベレッタのマガジンを抜く。
 もう銃を直している暇はない。MP5はすでに弾切れだ。フロイドは一歩後退した。
 ダン!ダン!ダン!ダン!
 立て続けの単発射撃。振り返ると、サイラスが片手でグロック発砲していた。ゆっくりと近づきながら、なおもゾンビに向けてサイラスは撃つ。17発の弾丸を撃ち切ったところで、ゾンビは全て倒れ付した。
 その後すぐに、皆が集まった。カードキーを使って予備配電室の扉を開け、中に飛び込んだ。

「地下一階に侵入。現在生存者は7名。現在予備配電室です。どうやら電力の供給を試みている模様です」
「なるほど。こちらの手間を省いてくれるというわけか。予定外のイレギュラーの存在も少しは役に立つ」
 地下4階、セクションA。第一級機密区画。
「奴らがここに辿り着くまでの予想時間は?」
「このまま行けば後30分以内には。現在ルートを封鎖中。現在通行可能なルートを一本に絞り込んでいます」
「こちらの脱出経路は?」
「現在第4分隊が地下4階の掃討に向かっています。現在セクションBからCエリアの掃討を確認」
「よろしい。奴らがくるまで少し休むとするか。エドガー、お前も少しは休んだらどうだ?」
 そう言って、男は部屋を出た。
 エドがー・クウェルはその後姿を見送り、男の姿が十分離れた事を見て引き出しに手をかける。その中には、一挺の黒光りする拳銃が隠されていた。
「さて・・・・・・」

「メイン電源を供給するためには、地下4階の発電室まで行く必要があるみたいです。とりあえず非常電源がついたのでエレベーターが使用可能になりました。これを使えば一気に地下4階まで降りる事が出来ます」
 デビッドが電気関係に詳しかった事が幸いし、何とか非常電源をつけることに成功した。これでも少々暗いが、特に支障はない。暗闇よりかはましだ。
「そこまで行くとして、どうやってゾンビを倒すかだな。もう残弾が殆どない」
 そう。フロイドのMP5はすでに弾切れで、サイラスはゾンビにのしかかられた際にどこかに落としてしまった。ルイの銃も時間稼ぎと牽制のために撃ちすぎたため、マガジン一本分しか残っていない。
「外に少なくとも6体はいる。それを突破しても、まだまだ大量のゾンビがいると見ていい。この装備で、これだけの人数。勝てる可能性は低い」
 ルイは言った。
「だが、やってみる価値はあるだろう。どっちにしろこんな所にいつまでもいられない」
 警備室で見つけた地図には、地下について大まかな事し書かれていなかった。だが、この予備配電室で見つけた地図には地下4階の機密区画を除いて詳しく載っていた。
「地下3階には、武器庫がある。そこまで行けば装備の補給ができるだろう。だが、エレベーターは地下1階から4階への直通だ。武器庫に行くには、階段を使うしかない」
 フロイドは一度言葉を切った。
「多分、ここにもゾンビがいると思う。これだけの人数で行けば死傷者が出るのは避けられない。一人か二人の少人数で一気に突破してしまうのが最も効果的な方法だが・・・・・・問題は、誰が行くかだ」
 その言葉に、一瞬辺りが静寂に包まれた。
 次の瞬間、ルイは無造作に置かれていたMP5を取った。レバーを引いて薬室に初弾を装填し、皆のほうへ向き直る。
「俺が行こう」
「でも、それじゃあ・・・・・・」
 エマが何か言いかけて、ルイを見て黙った。今の彼は、誰にも止められそうにない。
「この中で一番戦闘能力が高いのは俺だ。だから俺一人で行く。合流地点はここ、地下4階のメインホールだ」
「じゃ、じゃあ・・・・・・俺も行くぜ」
 僅かに震えながら、サイラスがグロックを握り締めていった。だが、ルイは首を振る。
「だめだ。これ以上誰かが抜けたらそっちが全滅するぞ」
「で、でもよ・・・・・・」
「はっきり言って、素人についてこられても足手まといなだけだ」
 そう言って、ルイは踵を返す。向かう先は、扉だ。
「ちょっと待って」
 エマに呼び止められ、ルイは振り返った。
「生きて帰って・・・・・・来るよね?」
 懇願するように、エマは聞いた。
「当たり前だ。死んでも戻ってきてやるよ」
 かすかに微笑んで、ルイは言った。
「洒落にならんからやめろ・・・・・・」
 やや呆れたように、フロイドが言った。
「それもそうだな。じゃあ、行ってくる」  まるで買い物にでも出かけるような口調で、彼は言った。
「発電室は俺たちが引き受ける」
 フロイドはそう言って、肩を叩いた。
「頼んだぜ」
 そう言って、ルイは扉を開けた。地獄への道を踏み出し、その後で音を立てて扉が閉まった。

第三章へ