BIOHAZARD BREAKDOWN 〜bygone〜 第一章

 バスの中で、4人は一番後ろの席に座っていた。
 左には男性陣が座り、右には女性陣という構成だ。ルイとフロイドは先ほどの出来事について、野次馬めいた話し合いをし、リサは先ほどの惨事のショックでぐったりとしたエマを看護している。
 先ほどフロイドは携帯を使って外と連絡できないか試してみた。しかし、だめだった。携帯は圏外のままで、どことも連絡がとれなかった。
「それで、やっぱ爆発事件だと思うのか?」
「ああ。少なくとも俺はな。ともかく、現地警察への連絡が先だろう。あれだけの爆発音だから、もしかしたらもうすでに連絡を入れているかもしれないが」
 窓際に座っているルイはふと外を見た。こうやって外の光景を見るのは彼の癖なのだ。
「ん?」
 一瞬、彼の眼は何かを捕らえた。まるで犬のようにも見えたが、こんな所にいるとは思えなかった。
「どうかしたのか?」
「今、犬みたいなものが見えた気がしたんだが・・・・・・」
 そう言うと、フロイドは呆れたような顔をした。
「おいおい、こんな所にいるわけないだろう?いるとしたら、そうだな・・・・・・
屋敷で飼ってる犬じゃないか?」
 そんなことをいっていると、やがて屋敷に辿り着いた。
「あれが屋敷か。ずいぶんと古そうだな・・・・・・」
 すぐに森は終わり、大きな浜の側にそびえる屋敷の前でバスは止まった。乗客は疲れた様子でバスを降り、彼らも手持ちの荷物を持って彼らに続いてバスを降りた。
 豪華な屋敷だった。中世風の外装だが、今度の観光事業にあわせてリフォームされており、ホテルとしての設備を整えている。  正面玄関は閉じていた。警備員などもいない。
(無用心じゃないのか?)
 幾ら観光客だけとはいえ、万が一のために警備員の一人ぐらいは配置しておくのが普通じゃないか・・・・・・と、レイは思った。  玄関に近づくと自動で扉は開いた。皆は中に入り、4人もその流れに続いて中に入る。そして、中の光景に息を呑んだ。
「何があったんだよ・・・・・・?」
 フロイドが呆然として呟いた。
 中に入って、出迎えたのは死体だった。腐敗がひどく、死臭があたりにひどい臭いをもたらす。
 屋敷で働いていたと思われる白い従業員用の制服を着た死体が三つ、ドアの側、中央の踊り場の下に倒れていた。
 ドアの側、正面玄関の隣にも6つの死体があった。黒を基調とした戦闘服を着た特殊部隊風の男たちだ。側にはマシンガンが落ちている。
「う、うわああああっ!!!」
 生存者の一人、まだ20歳半ばぐらいの青年は突然叫びだすと、他の人々を押しのけて外に出た。そのまま逃げるように先ほどの森へと駆け出す。
 その顔は、狂気に取り付かれていた。突然の航空機の爆発、そして出迎えたのは死体・・・・・・発狂してもおかしくはない。
「おい!どこに行くつもりだよ!」
 ルイは青年の後を追って外に出て叫ぶが、青年は何かに取り付かれたように走り続け、やがて見えなくなった。
 同時に、長い悲鳴。そして、それもやがて聞こえなくなった。そして、犬の遠吠え。
「犬・・・・・・?」
 (あの犬なのか?俺がバスで見た・・・・・・?)
 そう呟いた時、中でまた悲鳴が上がった。
 ルイが屋敷の中に入ると、ちょうど3人の男が立ち上がったところだった。
 白い制服を血で染めて、不確かな足取りで近づいてくる。その顔の皮膚は所々が剥がれており、眼球がなかったりと様々だが、皆一様に正面玄関の彼らに向かってくる。
 糸が切れたようなパニックに陥った。
「やばいぞ・・・・・・」
 フロイドは呟いた。
 信じられない光景に、皆は硬直していた。だが、次の瞬間には殆どの人々が館を飛び出し、そのまま思い思いの方向へ散っていく。そして、悲鳴が上がる。
 ルイはふと落ちている銃を見た。グアムに行った時に何度か撃った事がある銃だが、弾があるかどうかはわからない。だが、そんなことに構っていられない。なければあれで殴りつければいいだけだ。
 エマは恐怖の余りへたり込んでしまった。まさにゾンビとしか表現しようのない、生ける屍は彼女に狙いを定めたのか、まっすぐに向かってくる。その動きは鈍重そのものだが、標的との距離がない状況ではたいした意味を持たない。
 彼は走った。そのまま銃を掴むと、肩膝を立てて構える。
 赤いレーザーポインターが一体目のゾンビに照準される。当たりやすい胴体の中心あたりに照準を合わせ、引金を引いた。
 タタタッ
 ゾンビは一瞬仰け反るものの、ダメージになっていないようだ。彼は照準を頭部に変更し、再び引金を絞る。
 タタタッ タタタッ
 2体のゾンビに3発ずつ。3体目にはフルオート射撃をお見舞いし、全ての敵を排除した。
「ふう・・・・・・大丈夫か?」
 ルイは改めて辺りを見回した。残っていたのは7人。
「大丈夫?立てる?」
 リサがエマに肩を貸し、何とか立ち上がらせた。
「何が起きているのかは知らないが・・・・・・やばそうだ」
 フロイドはそう言って、落ちているサブマシンガンを拾った。MP5A5というドイツ製の高性能な銃で、扱いやすいものだ。ライトやレーザーがついていて、狙いやすい。室内戦では役に立つ銃ではあるが、あの化物相手に使うには少々威力不足のよ うだ。
「とりあえず、銃と弾丸は回収しておこう。これから先、こんなのに出会うかもしれない」
 フロイドにそう言って、ルイは立ち上がった青年にMP5を押し付ける。
「あんたが使ってくれ」
 押し付けられたMP5を、青年は困惑気味に受け取った。
「これ、本物なのか?」
「ああ、そうだ。俺もあまり使った事はないが・・・・・・扱いには注意しろ」
 その時、フロイドに呼ばれて皆は踊り場まで行った。
「さて、飛行機の爆発事故に、この動く死体・・・・・・一体何が起きたのかはわからない。だが、パニックになってはいられない・・・・・・今見てみたんだが、ここの電話線は切られてるし、携帯はつながらない。まったく、何がおきているんだか・・・・・・」
 彼らは、切られた電話線を見た。これで、外界との連絡手段は途絶えてしまった。
「ともかく、相手が誰なのかわからなきゃどうしようもないわ。自己紹介をしましょうよ。私は、リサ・メイラム。それで、彼女がエマ・ディーよ。そっちの二人が・・・・・・」
「フロイド・ホープウェルだ。そんでこいつがルイ・スタンフォード。旅行でここにきた」
 次に、先ほどの青年の紹介。MP5はそこらに置いておいて、青年は言った。
「俺はサイラス。サイラス・ボイドだ。本当は彼女と来る予定だったんだが、直前でふられてね。一人旅さ」
 場を盛り上げようとしてか、少しおどけた様子でサイラスは言った。だが、焼け石に水だ。
「私は、サラ・テイラー。サンフランシスコで医者をやっています。休暇をとって、ここに来たんですが・・・・・・」
 30歳くらいの、眼鏡をかけた少し弱々しい印象の女性だ。
「私はデビッド・フランコ。会社の仲間と旅行でここに来たんだが、生き残ったのは私一人のようだな・・・・・・」
 最後に、ビジネスマン風の男性だ。会社の同僚を一気に失ったためか、声はわずかに掠れている。
 そして、一通りの自己紹介を終えたところで、フロイドが口を開く。
「さて、とりあえず武器の分配といこうか」
 その後、ルイが一通り中の扱い方について説明した。かまえ方、弾倉交換の仕方、安全装置についてなどだ。
 その説明を終え、武器の分配に入る。
「さてと、まずはマシンガンからいこうか。とりあえず俺とフロイド、後は・・・・・・ボイドさん、頼むよ」
 弾倉を交換したMP5と、予備の弾倉2つを渡した。それとマグポーチ付きの防弾ベスト。
「つぎにこいつだ」
 見つけた拳銃は7丁。バックアップ用の小型拳銃が二丁あり、これはエマとサラに分配された。それ以外の銃では、大きすぎて彼女たちには扱えまい。
 次の、少々大型の、ベレッタM92Fと呼ばれる拳銃はフロイドとデビッド、ルイのものとなった。一番数が多く、弾薬もある程度あったので、拳銃のみのデビッドに予備の弾倉を3つ、二人に二つずつ渡された。
 最後に、グロックと呼ばれるおもちゃのような銃を、リサとサイラスが受け取った。
「で、どこに行くの?」
 リサが尋ねる。
「・・・・・・外は危険だ。あのバスがあればいいんだが、どこにいったのかわからない」
「ちょっと待って。どうして外が危険なのよ」
 その質問に、ルイが答えた。
「外に出て行った奴は多分みんな死んでる。一瞬見ただけだが、犬だか狼だか分からないが妙な化物がいやがった。多分こいつらの親戚かなんかだろうな」
「でも、こっちには銃があるじゃない。何とかなるんじゃないの?」
「幾ら銃があっても、使うやつが素人じゃすぐに死ぬぞ」
 そう、どんなに強力な武器を持っていようと、それを使いこなせなければ勝ち目はない。
 そう言われて、リサは押し黙った。フロイドは踊り場を出て、扉を閉める。
「ここは窓があって危険だ。他の部屋へ行ったほうがいい」
 ルイは防弾ベストを着用し、腰のベルトにベレッタをはさんだ。暴発を防ぐために安全装置を掛けておく。これで、暴発の心配はない。
「ぐずぐずしている時間はないぞ。もしかしたら何処からか外部と連絡できる場所があるかもしれない」
 もとより,ほかに道はなかった。ルイとフロイドが先頭に出て、サイラスは後方警戒だ。デビッドが拳銃で援護するために三番目、女性三人はその間だ。
 まずは一階から探索をはじめた。と言っても、二階、三階にはまず用がないといってもいい。全て客室だからだ。たいしたものは置いてないだろう。
 MP5の安全装置を解除し、右側のドアを蹴破る。即座に廊下の中央にいたゾンビに照準を合わせ、引金を引いた。相手は止まっており、急に動き出すような事もない。
至近距離からとまっている『モノ』を撃ち抜くのは至極簡単な事だった。元々は『人』であったものを撃つという考えは、ひとまずおいておく。
 タタタッ
 頭部に命中し、ゾンビは倒れこんだ。そのまま辺りを見回し、異常がない事を確かめる。
「大丈夫だ」
 その時、ゾンビの死体が一瞬、動いた。フロイドは無造作に頭部を踏みつける。
 その光景を見て、エマが小さく悲鳴を洩らした。だが、フロイドは気にせずに先へ進む。
「さてと・・・・・・どこから調べようか?」
 ルイが言うと、フロイドは一番奥の扉を指し示した。
「警備室だ。何かあるかもしれない」
 扉の前にフロイドが陣取る。扉を少しだけ開けて中の様子をうかがい、安全を確認して中に入る。
「で、これからどうするんだよ?」
 サイラスが尋ねた。
「何かありそうですね。とりあえず手分けして探してみませんか?何か見つかるかもしれません」
 デビッドの提案で、とりあえず物資調達のためあちこちを探索すことになった。

 フロイドは、奥にあった資料室を探索していた。だが、探しているのは武器や弾薬ではない。
 置いてある資料を漁り、気になる一枚を手にとった。物陰に隠れ、資料を見る。
『各研究員に通達。地下04エリアへの通路のパスコードを更新する。今週のパスワードはWOLF1987obs。なお、B04エリアへの通行に関しては担当官に事前通告しておくこと。なお、まもなく実験用のサンプルが届く。T−ウイルスの扱いについては、各自十分注意する事。なお、この件は第二級機密事項とする』
(なるほど・・・・・・やはり、ここはT−ウイルス研究のための施設か・・・・・・だが、それならばなぜあんな情報が入ったんだ・・・・・・?)
 フロイドは『あの実験体』についての資料がまったくないことに疑念を抱いた。だが、もしかしたら第一級機密事項に属する事かもしれないと思い始めた。第一級機密に属する情報はここにはない。
 フロイドは他の資料も読み漁り、この館と地下室の詳しい地図を入手した。他にも何枚かあったが、フランス語やドイツ語などで書かれていて分からない。こんな事なら、もっと勉強しておけばよかった、と彼は嘆く。
 まあいい。とりあえず、当面必要な物は入手した。
「みんな、これを見てくれ」
 先ほど見つけた紙はしまい、地図だけを中央の机の上に広げた。
「どうやら、これによればこの先の書斎から地下にいけるみたいなんだ」
 デビッドは低くうなった。隣にいたルイには、なんと言っていたのか聞こえなかった。
「とりあえず見つけたのは9ミリ口径のホローポイント弾が30発、それに特殊警棒2つと救急スプレーが一つ」
 特殊警棒はエマとサラに渡しておいた。拳銃が使えなくなったときの護身用として。
予備の弾薬を持っていない彼女たちの最後の武器として。
「この先にも、やつらがいるの?」
 不安そうに、エマが声をかけてきた。
「多分な。できるだけ戦闘は避けたいが、ある程度は覚悟してくれ」
 ルイは正直に答えた。そこにサラの疑問。
「でも、空港のヘリコプターで脱出できないかしら?」
「そう言いたいが・・・・・・操縦できないんだ。誰も」
 パイロットのいないヘリ。操縦できなければヘリは役に立たない。サラはがっくりと肩を落とした。
「悲観的になってもしょうがない。そろそろ出発しようか」
 フロイドが、皆を励ますように声をかけた。

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