BIOHAZARD BREAKDOWN 〜bygone〜 序 章
今年は例年に比べて南半球の気候が安定している事もあり、観光業、特に南国への海外旅行は大きな収益をあげていた。リゾート地帯は観光客でにぎわい、まだ7月後半に入ったばかりだというのにもかかわらず主な観光地は観光客で埋め尽くされている。
そんな中、太平洋の中心、赤道近くに位置するエイジア島は、その位置からみても観光地としてはかなりの好条件を揃えながら、今まで観光客が訪れる事がなかった。
島は縦長で、三日月形。中央に大きな湾を備え、北端は森林地帯、南には休火山がある。中央にはかなり年期の入った屋敷があり、昔どこかの金持ちが建てたのであろうそれは今では放置されていた。
この島は、今まで裁判でその権利が争われていた。だが、1年前にその裁判はようやく終わり、その島はヨーロッパの大会社のものとなった。そして、子会社の観光会社がそこを開発し、リゾート施設に仕立て上げた。そして観光シーズンの始まりと共に、大々的なキャンペーンを開始した。いわゆる開店セールスのようなもので、値段の安さが人気を呼び、屋敷を改装して造られた旅館はあっという間に予約で満杯となった。
そして、その第一陣が、その島に向かっている。
会社側が用意したジェット旅客機に乗った総勢100名余りの観光客は、これから向かう島に対して様々な憶測をめぐらせていた。
第一陣ということで観光客は彼らだけ。広い島で存分に楽しめるのである。ビーチでの海水浴のほか、ハイキングや散策なども十分に楽しめる島であり、今回は特別キャンペーンで無料参加していたり、料金の安さに釣られた客も多いだろう。
彼らも、そうだった。
「もうすぐ着くんだろう?」
後の席から、フロイド・ホープウェルが声をかけてくる。
「後10分くらいじゃないか?」
そう言って、ルイ・スタンフォードは窓から見える景色に目を細める。マリンブルーの海はグアムやハワイでもよく見られる光景だが、ここの海はそれよりもさらに澄んだ、綺麗な海だ。十分楽しめそうだ、とルイは心のうちで呟いた。
「でも、宿泊施設って館一つでしょう?こんなにいるのに、部屋は足りるのかしら?」
隣の席から、エマ・ディーが話に乗りだしてきた。
「あの館は三階建てだし、部屋も多いらしいぜ。それに、外でキャンプする客も多いんじゃないのか?いずれホテルとかも建つだろうし。・・・・・・ほら、ここの平地の所。ここでキャンプ張るんじゃないか?」
フロイドはパンフレットを取り出し、地図の部分を広げる。パンフレットはキャンペーンに当選した時についてきた物で、地図によれば南から北に掛けて中型の滑走路がある。これを新設したおかげで、今までのようにヘリコプターや連絡船を使う必要がなくなった。大規模な観光事業には空港は必要なものだ。
滑走路の側にはヘリポートがあり、緊急用にいつもヘリが一機待機している。館には医療施設もあるし、特に危険な生物もいない。ビーチの反対側には小規模な港があるが、空港が出来てからは殆ど利用されていない。
「しかし、よく当てたわねえ。あんたの幸運には感謝するわ」
リサ・メイラムが口をはさんできた。
彼らは、大学の卒業旅行でここにきていた。本当はヨーロッパに行こうという話が出たのだが、ルイが応募したキャンペーンに偶然当選したのだ。ファミリーの4人分が当たり、こうして4人分の航空券と無料宿泊券が手に入った。
「そういえば、お前ってよく国内旅行とか行くよな」
「まあな。グアムとかハワイにはよくいくし、最近はラスベガスとかにも足を運んでる。最初の頃はただ遊んでたんだが、最近射撃にはまっててね。ここ数年はそればっかしだ。長い休みにはよく撃ちに行ってるよ」
「残念だが、今回行く島にはそんなものはないぜ。ま、最初は海水浴にでも行って、後半は島の散策にでも行きますか」
その時、機内のアナウンスが入った。まもなく着陸するようだ。
ルイはシートベルトを締めて、窓から外を見た。機体はまっすぐ滑走路に向かっている。
近くに山が見えた。休火山だろう。頂上に目を凝らして、一瞬、妙なものが見えた。
それはすぐに見えなくなってしまった。まるでレーダー施設のような巨大なパラボナアンテナと、何かの施設。彼には、その正体はわからなかった。
その建物の正体を突き止めるのをあっさりと諦めると、ルイは再び窓の外の光景に目を凝らした。
飛行機は順調に速度を下げていった。現在高度は100フィートぐらい。飛行機はゆっくりと高度を下げ、着陸しようとしたところで、機体を突然の振動が襲った。
「何だ?」
機体は一瞬にして高度を下げ、まるで垂直落下するような勢いで地面に車輪を打ちつける。
ひどい揺れの中、ルイはふと窓から外を見た。主翼に搭載されているエンジンが爆発し、主翼がひどい損傷を負っている。強化ガラスに破片が命中し、ルイは慌てて身を引いた。
「なんて無茶な操縦しやがる」
フロイドは悪態をついた。やがて飛行機は減速し、停止する。客室乗務員がさっきのはちょっとした突風に煽られただけです、と説明し、客の混乱を沈めようとする。
しかし、客の中には破損した主翼を見たものも多かった。あれをみてそんな説明を信じるやつはいない。
「何があったんだ?」
「わからない。エンジントラブルかなにかはわからないが、とにかく早く下りたほうがいい。何が起こるか分からないからな」
その間にも客室乗務員がテキパキと、だがどこか慌てたような様子で客たちを降ろしていく。
「こちらです。列に並んで、慌てずに降りてください」
客室乗務員の案内で、彼らは出口に向かった。そのまま滑走路の端に下りて、迎えの大型バスに向かった時。
――轟音。
衝撃で彼らは吹き飛ばされた。ルイはいきなりの衝撃に対応できずに吹き飛ばされ、地面に背中を打ちつけた。フロイドはとっさにそばにいた人を地面に伏せさせると、自分も地面に伏せ、衝撃波をやり過ごす。
リサとエマは二人して腰を抜かしていたが、特に外傷はなかった。
「なんだよ・・・・・・こりゃ・・・・・・」
飛行機は中心から二つに分かれていた。中央の、ちょうど客席があるところからひどく炎上している。
「みんな、早く逃げろ!爆発するぞ!」
誰の声か、などということはルイにとってどうでもよかった。もっと重要な事があ
る。
ともかく人々は『爆発』という言葉を聞いて、一目散に逃げ出した。
ルイは立ち上がると、傷む身体を鞭打って走り出す。途中で倒れていた女の子を抱えあげると、そのまま一気にバスまで全力疾走する。
何とかバスの近くまで走り抜いたとき、前回のそれをはるかに上回る爆発が起きた。耳を劈く轟音、衝撃。破片があちらこちらに飛散し、飛行機は完全に破壊された。
それだけではない。燃料に引火した炎は管制塔を包み込み、火だるまにしてしまった。
「なんてこった・・・・・・」
ルイは唖然として呟いた。
「大丈夫か?」
振り返ると、フロイドがいた。他の二人も。ルイは仲間の無事を確認し、安堵した。
「ああ、なんとかな」
ルイはそう答えて、飛行機の残骸を一瞥した。これだけの惨事が起きたにもかかわらず、彼の目はあたりを観察するように動き、冷静な頭はこの惨事の原因を探っている。
「生存者は20人ぐらいか・・・・・・一体なにが原因だ?」
「これは予想だが、爆弾の可能性が高い」
フロイドが横に並んで言う。
「爆弾?まさか。」
「こいつは前に見たテレビの受け売りだが、あの型の飛行機は安全性が高いんだ。耐久性も高いから、ちょっとやそっとのことじゃ壊れない。それを考えると、爆弾の可能性が高いと思うが・・・・・・今はどうでもいい」
そう言って、バスを見た。
「この島にはまだ法執行機関がない。だから爆弾かどうかは後で警察にでも任せておけばいい。救助しようにも、消防士もいないしな。第一生存者がいるとは思えない」
たしかにあの爆発で生き延びている人がいるとはとても思えない。それに、あの炎じゃ思うように近づけない。
だが、やけに冷静すぎやしないか?そう思ったルイはフロイドを見るが、彼はあいも変わらず冷静だ。冷静沈着、という言葉が代名詞のような人間だが、正直ここまでとは思わなかった。
「ともかく、屋敷に行って事情を説明して電話すればいいさ。すぐに警察とかが来るはずだ。」
そう言って、フロイドはバスに向かった。消沈している人々を励ましながら、他の人もバスに乗り込む。
「嫌な予感がするな・・・・・・」
もう一度飛行機の残骸を振り返って、ルイはバスに乗り込んだ。
バスの中では、一部の人を除いて殆ど皆が無言だった。バスは森を切り開いて作った小道を進む。5台の自動操縦バスに20人ずつ乗せる予定だったのだが、今では一台のバスしかその役割を果たしていない。
時折、嗚咽とすすり泣きの声が聞こえる。家族や親しい人を失った人たちが洩らす声だ。
だが、まだ悪夢は始まったばかりだった。
彼らは、人という死神の鎌に捕らえられていた。