Epilogue 〜終 章〜

『・・・・・・次のニュースです。2日前、アンブレラ社のウイルス研究施設にて、ウイルスの漏洩事故が発生しました。現場は現在も自衛隊によって封鎖されていますが、警察庁からの発表によりますと、この事故における死者は257名、いずれも施設で働いていた職員とのことです。なお、ウイルスは施設外へは漏れていないとのことです。また、発表によりますと、施設内部では生物兵器の開発が行われており、内部ではウイルスに感染した職員たちが・・・・・・その・・・・・・亡者となって歩いていたとのことです。このウイルスはまったく新しいもので、現在調査が進められています。また、1998年にアメリカ合衆国にて発生したラクーンシティにおける放射能漏洩事件との関連性も多端見られており、これも、現在調査中とのことです・・・・・・』
 そこまで聞いたところで、ラジオのスイッチを切る。コートのポケットにそれをしまって、ルイは立ち上がった。
「・・・・・・一段落したんで、報告しにきた。どうやら各国、特にアメリカが中心となってアンブレラに訴訟を起こすらしい。CIA辺りも動いているようだ。どうやら、何も知らなかったことにしたいらしい。あの事件の関係者が、次々といなくなってる。もちろん、国内も、アンブレラの人間も含めてだ。・・・・・・こっちの計画は順調に進んでる。アンブレラの株は地の底だし、こっちの工作がうまくいったから、そう時間もかからずに倒産するはずだ。」
 そこまでいって、ルイは眠りつづける男を見る。彼は相変わらず何も答えず、目を瞑ったまま眠りつづけている。
「植物状態の奴に何言っても無駄だってことは分かるが、そう簡単にあきらめがつくもんじゃねえな。」
 そういって、見舞いの果物を置くと、ルイは彼に向き直る。
「いいかげん、起きやがれ。おまえを待ってる奴だっているんだぞ?俺だってこれからが大変なんだ。脱走したアンブレラの関係者、とりわけ研究員の捜索と逮捕・・・・・・アンブレラと同じようなこと考えてる奴らはいっぱいいるんだ。そいつらにT−ウイルスの情報を渡すわけにはいかないからな。俺たちはまた奔走する羽目になりそうだ。」
 そこまでいって、ルイはため息をついた。
 彼はすでに死んでいる。植物状態なので厳密には死んでいないが、意識がもどる可能性は限りなく低いとのことだ。現に、ここ数年、彼はまったく目を覚まさない。その兆候すらない。
 最初の頃は毎日のように訪れていた彼らと同じ生存者たちも、最近来るのはルイを含めて二人だけだ。しかも、ルイは潜入工作員となってからほとんど訪れていない。
「とりあえず、今日はもう帰る。次にこれるのはいつになるか分からないが・・・・・・とっとと目を覚ませよ。」
 そういって、彼に背を向けた。扉を開けて出ようとしたところで、扉越しに気配を感じる。
 まさかとは思うが、万が一ということもありうる。念のために腰の後ろから護身用の小型リボルバーを引き抜くと、コートの内側に隠した。
 ガチャリ
 彼が扉を空ける前に、扉が開いた。
「よう。終わったらすべて聞かせてやるって言ってたよな。聞かせてもらいにきたぜ。」
 そこから出てきたのは、二人の警官だった。

「まさか、あんたたちに突き止められるとはな。」
 車椅子に乗った弘樹を部屋の中にいれ、源三は扉を閉めた。
「傷はどうだ?」
 ルイが尋ねる。
「一命は取り留めました。しばらくは車椅子ですが、もう大丈夫ですよ。」
「そうか。」
 あの時、アンブレラの特殊部隊の包囲を突破し、ルイ達はエドガーが脱出に使う予定だったヘリに乗って、何とか脱出を果たした。その後、気づいたら二人は眠っており、この病院に収容されていた。
「てっきりアメリカにでも帰ったのかと思ったが、まだこんなところにいたとはな。・・・・・・こいつは?」
「見てのとおり、病人さ。今日は見舞いに来たんだ。で、用は?」
「すべてを話してもらいに来たのさ。こいつの手術も一通り終わったし、聞いてみようってことでな。まあ、見つけたのはたまたまさっきおまえを見かけたからなんだが。」
「なるほど。ずいぶんと幸運に恵まれているらしい。」
 肩をすくめながら、ルイは言った。
「まあ、話したくないこともあるかもしれませんが、お願いします。あのまま終わるって言うのも、何かいやなんで。せめて、事情ぐらいはしっておきたいじゃないですか。」
 弘樹が、車椅子に身を沈めながら言った。
「・・・・・・分かった。まず何から聞きたい?」
「俺たちがあんなところにいく理由だ。」
「君たちが選ばれたのはまったくの偶然だ。まあ、実際に殺人事件がおきていたのは確かだが。実は、クウェルの研究を盗もうとした社員がいてね。どうやら他社に売り込むつもりだったらしい。まあ、あいつと同じことをしようとしたわけだ。だが、クウェルはその社員を始末させ、外部に微量のウイルスをばら撒いた。同時に猟犬も何匹か放して、すべておしまい。だが、ゾンビ化した猟犬を始末するのが早かったせいか、完全に死体が食われず、弾痕が見つかった。まあ、そういうわけだ。それの捜査は奴が無理やりもみ消したんだが、俺の仲間が何とか追跡調査という形で体裁を整え、偶然君たちが派遣された。そういうことだ。」
「俺が聞きたいのは理由だぜ?」
 どうやら、質問をはぐらかされたことに感づいたらしい。さすが警官。
「理由か。下準備といったところだ。公式の記録にアンブレラのウイルス研究施設という場所で起こった事件の捜査が行われたという記録を残しておきたかった。いざというときには切り札となるはずだったんだが、もうその必要はない。巻き込んでしまってすまないとは思っている。何か望むものがあれば言ってくれ。組織に掛け合ってある程度は譲歩させる。」
「そんな事はいい。それより、これからどうなるんだ?」
「君たちは、今までどおりの生活に戻ってくれ。すでに、君たちがあの場所にいたという記録は抹消した。上司にも話をつけてある。君たちは、ほかの事件の担当にあたっていた。だから、もう心配は要らない。今までどおりに過ごすのは難しいが、がんばってもらうしかない。」
「アンブレラはどうなる?」
「倒産は確実だろう。あれだけ堂々と表舞台に出されたような会社に、金を出す奴はいないさ。だが、その分ほかの組織の動きが活発になってきている。当分は、それらの監視、かな?」
「じゃあ最後に・・・・・・」
「その先は言わなくても分かってるよ。俺の過去の話だろう?・・・・・・すべてを話すと約束したんだ。話そうじゃないか。」
 そこまで言って、ルイは微笑んだ。
「あの、その前にひとついいですか?」
「ん?」
 突然の、弘樹の言葉。
「そこで眠っている・・・・・・彼は、誰なんですか?」
「ああ。こいつはフロイド。そのときの生存者・・・・・・とはいえないかもしれないな。植物人間だし。」
「でも、生きているんでしょう?意識が戻る可能性だって・・・・・・」
「確かに、あるにはある。だが、その確率は途方もなく低い。それより、今は過去の話しを聞きたいんじゃないのか?」
「・・・・・・すいません。口をはさんで。」
「気にするな。」
 うなだれた弘樹に向かって、ルイは言った。
 そして、続ける。あの時何があったかを。
「そう、あれは――」

 植物状態。意識がもどる可能性は途方もなく低い。
 それを聞いて、弘樹はなんとなく、フロイドを見た。
 彼は、ずっとこのままなんだろうか。目覚めず、ただ、寝ているだけ――。
 だが、それではあんまりではないか。あまりにも悲しすぎる。
 その光景は、そんな彼の感情がもたらした、一種の錯覚だったのかもしれない。
 だが、彼には確かにみえたのだ。ルイが話しはじめたとき、フロイドの手が一瞬、動いたのだ。
 ルイは気づいていない。フロイドに背を向けているからしょうがない。だから、そのことを伝えようとして――
 できなかった。
 やはり、錯覚だったのかもしれない。そんな思いが、彼の自信を無くしていく。
「・・・・・・どうした?」
「・・・・・・いえ。」
 彼の話を聞き終え、自分の病室に戻ってからも、弘樹はどことなく落ち着かなかった。
「まあ、あんな話を聞いた後じゃな・・・・・・俺だって、実際に経験してなきゃ信じられねえ話だ。」
 そういって、源三はタバコを取り出し、禁煙だということに気づいて慌ててしまう。
 そんな彼の姿を見て、弘樹はいった。
「さっき、彼が・・・・・・」
「ん?」
「動いたような気がするんです・・・・・・」
 その言葉に、源三は一瞬驚いたような顔をして・・・・・・
「実はな、俺もみたんだ。」
 いたずら小僧のような顔をして、源三も言った。

 トサッ
 部屋を出ようとしたルイの手から、お見舞いの品を入れてきた籠が落ちた。
 だが、彼はそんな事を気にもとめていない。彼はただ一点を見つめ、そして、喉の奥から搾り出すようにしていった。
「フ・・・・・・フロイド・・・・・・」
「・・・・・・やあ。」
 体は寝たままで。でも、顔をこちらに向けて。
 いつ目覚めたのか、自分でもわからない。あのときのまま、記憶は途切れているが、目の前のルイを見れば分かる。よほど苦労したのか、少し疲れているようだ。
 そして、彼は今、唖然として自分を見ている。この表情から察するに、おそらく、自分は長いこと目を覚まさなかったのだろう。
 だけど、そんなことを微塵も感じさせない声で、フロイドは、親友に久々の挨拶を交わした。

THE END