Chapter.6 第六章〜脱出劇〜

「・・・・・・こちら、第2分隊。これより作戦を開始する。」
「了解した。回収予定は20分後だ。それまでに、全員戻ってこいよ。」
「了解!」
 ヘリポートの上空でホバリングする軍用の輸送ヘリから、多数の兵士がロープを使って降下する。その数は合計して20名ほど。全員が黒い防弾・対ショック製のヘルメットやベストと各種装備、それに銃を携えている。
「作戦を開始する。予定通りにやれ。」
 隊長格であるらしき男の合図とともに、部隊は二手に分かれ、室内へと突入していく。その動きは迅速で、無駄がない。
 やがて、屋上にはホバリングするヘリだけが残された。パイロットたちは気を緩め、レーダーを警戒しながらも雑談をはじめる。
 これが、命取りになった。

 ――私は、死ぬわけにはいかない。
 それは、願望だった。
 無理をして走ったせいで、腹部からは大量の血が流れ出している。足も同様だ。
 やつの攻撃を何とかしのいだはいいが、その前に受けたダメージはもはや回復不可能になる寸前まで彼を疲弊させていた。
 しかし、彼の心に絶望はなかった。途中の施設内にいた黒服の特殊部隊からも逃れ、彼は今、希望への轍を踏んでいる。
 ――後はこの階段を上がれば、ヘリポートだ。ヘリの中にある救急セットで止血すれば、まだ助かる余地はある。止血を終えたら、ヘリを発進させればいい。何、飛ばすぐらいなら自分にだってできる。
 何より、ここで死んでしまっては、これまでの行動がまったくの無駄になってしまう!そんなことは、彼にとっては許せなかった。ゆくゆくは、彼の亡命先である企業をものっとり、栄華を誇るというプランがあるのだ。
 ――それを、あの男は。
 ルイ・スタンフォード。アメリカ合衆国出身で、年はまだ20代のはずだ。現在は反アンブレラを掲げる地下組織に所属しているという話だったが、まさかこんなところにもぐりこんでいるとは。
 まあいい。私の最高傑作が相手では、あいつも生きてはおるまい。いくら海軍の特殊部隊養成コースを受け、実戦にも参加したスペシャリストといっても、それは人間相手での話だ。化け物相手ではどれほど役に立つことか。
 ――あのときのようには行かない。
 重い音を立てて、扉が開いた。

「へ?」
 口をついて出たのは、そんな間抜けな声だった。
 彼の目の前にいるのは、赤外線ゴーグルをつけ、サブマシンガンで武装した黒服の兵士たちだ。みな一様に彼に照準を合わせている。
 一瞬、先ほど突入してきたやつらかと思ったが、違う。絶対に違う。
「待ってくれ・・・・・・私は・・・・・・」
 荒い息で、そこまで言うのが精一杯だった。
 次の瞬間、大量の銃弾が彼の胴体を、頭を、手足を貫く。狂った人形のように彼は踊り、やがて肉の塊となって地面に倒れた。
「射撃停止。」
 リーダーの指示に従って、兵士たちは発砲を停止する。全員が同じような動きで銃の弾倉を交換し、室内へと突入していく。
 後に残されたのは、撃墜された軍用ヘリと、ひとつの死体だった。
 エドガー・クウェルは、死んだ。

 ドサッ
 そんな音を立てて、やつは崩れ落ちた。
「は、はは・・・・・・」
 寸前で『Sovereign』が崩れ落ち、辛くも生き延びたルイは、引きつった笑い声をもらす。
 勝った。自分の力で。こいつを倒すことができたのだ。
「ちょっと来てくれ!弘樹の状態がなんか変だ!」
「わかった!」
 勝利の余韻を抑えながら、慌てて駆け出し、彼の状態を見る。
「傷を負ってる・・・・・・まずいな。おそらく感染している。」
「感染?」
「上にいたゾンビみたいになるってことだ。もっとも、個々の時間差はあるがな。だが・・・・・・彼は、長くは持たない。」
「どうすればいい?」
「今、うちの特殊部隊が突入してきているはずだ。その中の医療班には、T−ウイルス用の解毒剤を持たせてある。少なくとも、それで一安心だが・・・・・・」
「問題は、いつ合流できるか、ってことだな。」
「そうだ。彼を不用意に動かすのは危険だし、かといって一人にもしておけない。ここの位置は知っているはずだから、何か手間どるようなことでもあったのか・・・・・・?」
「ともかく、じっとしているしかないってことか。」
 自動小銃をそばに携えて、源三が座り込む。ルイも二挺の拳銃を取り出し、破壊されたドアを警戒した。
 そして、それから1分後。彼らのもとに近づく足音を聞き、二人は銃を構えた。
「果たして、敵か味方か・・・・・・」
 やがて、彼らは室内に飛び込んだ。
「ルイ!」
 その中の一人が叫ぶ。
「チェスト!おまえか!」
 安堵の含まれた声でルイが叫び、銃を下ろす。それを見た源三もライフルを下ろした。
 ルイは立ち上がると、7人ほどいる兵士たちの一人に話し掛ける。どうやら彼がチェストというらしい。
「チェスト、医療班はいるか?至急、解毒剤が必要になった。」
「Ok。キース、スミス。彼を診てやってくれ。」
「了解。」
 チェストに命じられ、二人の兵士が弘樹の容態を診る。そして、ギプスで首を固定し、腕に注射を打つ。
「まずいですね。あちこちの骨が折れていて、不用意に動かすと危険です。とりあえず危険と思われる部分は固定しておきましたが、それでも担架が必要になりますね。」
「よし、移動式の担架を使え。やつらがくる前に、ここから撤収する。」
「やはり、アンブレラが?」
「ああ。特殊部隊を送り込んできた。今あちこちで銃撃戦をやっているよ。とにかく、急ごう。」
「わかった。」
 担架に乗せられた広木を二人の兵士が運び、それを護衛するように3人がつく。ルイは白衣を脱ぐと、渡された防弾ベストと特異な形状のサブマシンガンを持つ。
「へえ・・・・・・FN製、P90か。いいものをもってきてくれたな。」
 5・7ミリ弾が装填されていることを確認すると、彼らは動き出した。
 同時に、それらも向かっていた。
 そして、必然的に殺し合いが始まる。

「このルートはだめだ!このままじゃ全滅しちまう!ほかのルートを探せ!」
「無理だ!これ以上は彼が持たない!突破する!」
 そういって、ルイは最後の手榴弾を放り投げた。時間差をつけたので、手榴弾は地面に落ちる前に破裂し、敵兵士をなぎ倒す。
「今のうちだ!撃って撃って撃ちまくれ!」
 その声に続くように、生き残っている13人の兵士は銃を発砲した。サブマシンガンによる猛烈な弾幕射撃を浴び、敵兵士がさらに倒れる。
 だが、最後まで残った兵士は狡猾だ。物陰に隠れ、時折射撃するだけだ。手榴弾はすでに切れ、敵がいる以上、不用意に通過もできない。
「くそっ!」
 ルイは悪態をついた。そして、弾の切れたサブマシンガンを放り投げると、腰のベルトにはさんだ拳銃を取り出す。
「お、おい!」
 慌ててチェスとが叫ぶが、彼はとまらない。そのまま通路の十字路まで突っ走り、左を向いて横っ飛びに飛んだ。
 ダンダンダンダンダン!
 目もとまらぬ速射。至近距離から不意打ちのように5発の弾丸を浴び、最後の兵士は崩れ落ちた。
「よし!全員、前進・・・・・・」
 チャキッ
「おやおや。第2陣の登場か。」
 彼らの視線の先では、第2陣、合計8名の敵が、銃を構えていた。
「勝てるか?」
 チェストがつぶやく。
「楽勝だ。」
 そう答えると、ルイは駆け出した。

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