Chapter.5 第五章〜崩 壊〜
ヒュン!
弾丸は、彼らのすぐ横に着弾した。
慌てて物陰に伏せ、二人は同時に飛び出した。自動小銃を手に、コンソールの前に立つ男に向ける。そして、再び叫んだ。
「動くんじゃない!」
銃を向け合い、固まる3人の男たち。時間が硬直し、1秒が1時間にも感じられた。
そのとき、膠着が解けた。彼の前でうずくまっていた男が動いたのだ。
「なっ!」
まさか動けるとは思わず、驚愕の声を上げ、逃げるエドガーを銃口で追うルイ。しかし、その狙いが定まる寸前、彼は反対側の扉を開けて逃げ出す。
「くそっ!」
慌てて、彼の後を追おうとするルイ。あれだけ撃たれて動けることには驚愕したが、まあ不可能ではない。とはいえ、足を撃たれているから、そんなに早く動けないはずだ。
しかし、扉を開けようとしたところで、悲鳴。
おそらくエドガーのものであろうその声にルイは硬直し、弘樹と源三も取りあえず銃口を下ろす。
そのまましばらく悲鳴が聞こえたかと思うと、やがて何も聞こえなくなった。レイは銃を抜き、扉に向かって構える。
「おい!」
後ろで聞こえた声に、ルイは振り向く。見れば、源三が銃を持ったままこっちに向かって叫んでいた。
「何があったんだ?ここは一体なんだ?何があった?あんたは誰だ?」
「俺の名前はルイ・スタンフォード。ここはアンブレラ社のウイルス研究施設だ。今逃げた男が基地内にとあるウイルスをばら撒いて、人間が化け物になった。あんたらも見ただろう?・・・・・・さて、ほかに何か質問は?」
必要最小限に、分かりやすく説明した。だが、どれだけ理解できたかは不明だ。なにしろ、Tウイルス自体が2年で覚えたうろ覚えの知識だ。それに加え、遺伝子工学のややこしい勉強。組織のおかげで何とか潜入には成功したが、知識不足ゆえに途中で冷や汗をかいた場面も多々あった。
そして、その答えに納得しなかったのか、源三がさらに何か言おうとしたとき、突然、振動。地面に投げ出されそうな衝撃が走り、3人はとっさに辺りの物につかまった。
「・・・・・・なんですか、今のは?」
弘樹が聞いた。
「多分、『Sovereign』の攻撃だ。この部屋にある武器が目的か、あるいは俺たち全員の皆殺しが目的か・・・・・・どちらかだ。」
「何がなんだかさっぱりわからねえ。一から説明してほしいね。」
「悪いが、説明している時間がない。それに、聞かないほうがいいと思うぜ。」
どこか自嘲めいた笑いを漏らしつつ、彼は言った。
「ひとつだけ聞かせてくれ。さっきあんたが言った『Sovereign』ってのは・・・・・・」
「さっきの男が完成させた生物兵器だ。人間をベースに開発したタイラントを基に、ナノマシンを埋め込んだ。最も、今は暴走してるがな。」
「なぜ?」
「俺が遅効性のコンピュータウイルスを入れたのさ。あいつはあんたらを殺そうとしてたしな。本当なら機能を停止して死に絶えるはずだったんだが、計算が狂って暴走した。あんたらにはいい迷惑だろうな。」
「まったくだ。」
心底迷惑そうに、源三が言った。
「悪いが、もうしばらく付き合ってくれ。やつを倒したら、メインゲートのロックを解除する。」
「やつを放っておいて脱出できないのか?」
「無理だ。それに、そんな気はない。第一この部屋から出たら最後、すぐに殺される。はっきり言って、戦闘知識じゃ俺やあんたらよりはるかに上だ。この状況でやつを倒す方法は二つ、力押しで肉体を破壊するか、内部のシステムをダウンさせるか。」
「で、結局どうやって倒すんだ?」
「力押しはまず無理だ。ロケット砲で景気よく吹き飛ばしたいんだが、生憎と屋上の非常用武器庫以外にそんな物騒なものは置いていない。だから、そこにあるコンピュータを使って・・・・・・」
そこまで言ったとき、突然扉が吹き飛んだ。同時に、人の形をした何かが高速ではいると、奥の物陰へと消えた。その影を追ってルイは慌てて発砲するが、命中しない。
「あれが化け物か!?」
叫びつつ、二人も発砲していた。自動小銃の銃声が響くが、いかんせん慣れていない素人の狙い、銃弾は当たりそうにない。
「くそっ!」
悪態をつきながら、慌てて物陰に伏せる。発砲しながら牽制しつつ、二人を呼ぶ。
「あれがあんたの言ってた生物兵器か?」
「そうだ。これからやつのプログラムを破壊する。しばらく時間が掛かるから、やつを逃がさないようにしておいてくれ。」
「どうやって破壊するんだ?」
「特定の電波をこの室内に流す。人間には影響はないが、あのナノマシンにとっては致命的だ。室外に出られると効果がなくなるから、この部屋から逃がさないようにしつつ、ひきつけておいてくれ。」
「それを、俺たちにやろうってのか?こっちはただの警官だぜ?」
「俺だってただの潜入工作員さ。付け焼刃のコンピュータの知識じゃ時間がかかる。頼んだぜ。」
「これが終わったら、全部話してもらうぜ。」
「心配しなさんな。俺がしなくても、ニュースで放送されるさ。」
「そいつはどういう意味だ?」
しかし、その質問にルイは答えなかった。
そのとき、奥で、ガシャンという音がした。その音を聞いて、ルイが舌打ちする。
「奥の武器庫がやられた。気をつけろよ。」
「おい、そいつはどういう意味・・・・・・」
しかし、その言葉は銃声に遮られた。銃弾が防弾の強化ガラスに当たり、弾丸がめり込む。
「こういうことだ。気をつけてくれ。」
「簡単に言ってくれるぜ・・・・・・」
半ば呆れつつ、源三は言った。
「やるしかないですね。」
慣れない銃を握り締め、弘樹が言う。
「よっしゃ!ついて来い!」
叫びつつ、源三は発砲した。
戦闘プログラム、モードDへ移行。室内における近距離制圧作戦開始。ターゲットは3、全員が武装している。2名は5・56ミリ自動小銃を発砲中。行動から見て、素人と推測。最後のターゲットはコンソールの奥。ここからでは射撃不能。武装は拳銃。
それは自らの武器の弾倉を換えた。レバーを引いて初弾を装填すると、物陰からわずかに身を乗り出して射撃を開始する。
バララララララッ!
アンブレラ社製の『T』専用兵装、マーティン・ウルフ機関銃。口径7・62ミリ、装弾数100発。今回の『T』特殊改良型に合わせてアンブレラ開発部で設計された、対人用の機関銃だ。
重量は20キロ、全長1500ミリと、人間ではとても扱いきれない大きさと重量を持つその銃だが、それにとってはちょうどいい大きさだ。命中精度もよく、威力も高い。
発砲しつつ、徐々にターゲットに接近する。物陰から物陰を移動しつつ、気づかれないように、徐々に、徐々に・・・・・・。
発砲の感覚が消失した。
弾切れだ。
弘樹は慌てて銃から空の弾倉を廃棄しようとするが、映画で見たことがある程度の銃なので、どこをどう操作していいのかまったく分からない。
「これ、どうやって弾換えればいいんですか!?」
源三に聞いた。
「適当にボタン見ないなの押してりゃでるだろ!」
取りつく島もない。仕方ないので、言われたとおりにあちこち操作してみる。すると、そのうちのひとつが見事正解だったのか、弾倉が銃から抜け落ちる。
「やった!」
ポケットの中の新しい弾倉をいれ、映画で見たように適当なボルトを探し、引く。弾丸が薬室に装填され、ガシャン、という音が響いた。
「やつの攻撃が激しくなってる!早く援護しろ!」
源三に言われ、弘樹は再び射撃を開始した。物陰からわずかに身を乗り出し、苛烈な攻撃の合間を縫って射撃する。
「・・・・・・何か変だな?」
妙に近づいているような気がする。気のせいだろうか。
再び、射撃が苛烈さを増してきた。弘樹は物陰に隠れ、射撃をやり過ごす。しばらくすると、何か重いものが落ちる音がした。
「弘樹!避けろ!」
「え?」
銃撃が途絶えたので、射撃を再開しようとした彼が見たのは、それの左腕だった。
ハンターほどでないにしろ鋭い爪が、彼の腹を引き裂く。寸前で避けていなければ、おそらくあれに腹を刺し貫かれていたはずだ。
だが、その攻撃はそれだけではなかった。傷は比較的浅いとはいえ、タイラントの攻撃は並みではない。しかも、それにナノマシンによる知能の強化で格闘術も覚えているのだ。弘樹は吹き飛ばされ、後ろの強化ガラスに背中を打ち付ける。
「弘樹!」
銃が吹き飛び、地面を転がる。強化ガラスに大きなひびが入り、彼はそのまま地面に落ちた。しかし、彼は起き上がるどころか身じろぎひとつしない。
「このっ・・・・・・」
しかし、源三が発砲するよりも早く、それは動いた。右腕を勢いをつけて振り回し、源三に殴りかかる。彼は慌てて回避したが、衝撃波で吹き飛ばされる。
二人を倒し、それは最後の標的へと向き直った。おそらく、最も手ごわい敵だ。
一気に加速し、左腕を振りかざす。至近距離でルイの顔を見て、それは左腕を振り下ろす。必殺の一撃。もはや回避も不能だろう。
同時に、プログラムの構成が完了。腕を振り下ろすそれを見て、起動スイッチに指をかけながら、彼はつぶやいた。
「あばよ。」