1998年10月2日、ラクーンシティ。
 未曾有のウイルス災害によって文字通り消滅したこの町には、今でも土壌の汚染などの問題が山積みになっている。それらの土地はアンブレラ社が管理しており、そこでは様々なBOWの実験が行われている。
 そんな事件から6年。人々はこのことを忘れかけていた。アンブレラ社は裏で生物兵器の開発を続け、ますます肥大化していく。
 そんな中、問題も発生していた。ラクーンシティでの事件以来、政府とアンブレラを繋ぐパイプラインである政府高官の一人が、アメリカにおけるこれ以上のウイルス災害を懸念し、新たな研究所の設置に難色を示してきた。争っても得ではないと考えたアンブレラ社はアメリカでの事業拡大をいったん停止し、次の研究所設置エリアとしてアメリカと親しいアジアのとある島国に目を留めた。
 その国の名は、日本。その案は即座に可決され、ラクーンシティの消滅から2年後、日本にアンブレラのウイルス研究所が誕生した。
 表向きは医薬品の研究・開発。そして、その裏では新たなる生物兵器の開発。
 研究は順調に進み、建設後数年にして日本支部は圧倒的な業績を上げていた。そんな中、あの事件は起こった。

Prologue 〜序 章〜

 2004年8月30日。夏休みももう後僅か、というこの日、斉藤弘樹は突然呼び出しを受けた。
 年は20代半ば。背が少し高い事を除けばこれといって特徴はない。彼は上司に突然の呼び出しを受け、休みを速めに切り上げて仕事場にきていた。
「斉藤。こっちだ。」
 警察署に入ろうとしたとき、突然後から声をかけられた。慌てて振り返ると、案の定、彼の相棒である安藤源三が車から身を乗り出し、こちらに向けて手を振っている。
「安藤警部補、どうしたんですか?俺はこれから・・・・・・」
「俺も呼び出されたんだよ。一通り説明は受けたから、とっとと乗れ。車の中でお前にも説明してやる。」
 そう言って、運転席に戻った。弘樹は一瞬躊躇し、上司である高崎警部に電話を入れてから、車に乗り込んだ。
 車は二人を乗せて発進し、そのまま高速道路にはいる。弘樹は隣の源三に質問した。
「それで、呼び出された理由はなんですか?」
「殺人事件さ。」
 源三は言った。
「それも、山の中でのな。うちの管轄なんで、俺たちが急遽呼び出されたって訳だ。なんでも死体はアンブレラ社の人間らしい。お前、アンブレラって知ってるか?」
「ええ、もちろん。確か世界でも有数の製薬会社でしょう?うちにもありますよ。あの会社の医薬品。」
「ともかく、その谷のすぐ側にその会社のワクチン開発研究所とかいうのがあるらしい。死因は至近距離からの銃撃。自殺の可能性も考えられたが、誰かと争った形跡があることから他殺とみなされた。遺体は野犬と思われる生物に食いちぎられており、損傷が激しい。おかげで身元の判明もままならない状態だ。」
 一息に説明して、源三は置いてあったペットボトルを取ると、水を飲んだ。
「行くのは俺たちだけですか?」
「そうだ。とりあえず研究所のほうへいって事情聴取と谷のほうで辺りの捜索をして終わりだとさ。もうあの辺りはいろいろと捜索されたが、念のためってことかね。万が一野犬と出会った時のために、こいつを渡されたよ。ほら。」
 そう言って、源三はダッシュボードを開けた。そこには行っていたのは、1挺の自動拳銃。シグ・ザウエルP230と呼ばれる小型の拳銃で、数年前にこれまでのリボルバー拳銃に代わって正式採用されたオートマチック拳銃だ。
 とはいってもこの銃は日本警察用に銃を改良し、32ACP弾を使用するように改造したものだ。パワーの低い弾なので殺傷能力はたいしたことはない。だがそれでも銃器の扱いには注意を必要とする。装弾数は7発だ。
「警部補は、何を?」
「俺はこいつさ。」
 そう言って、源三は肩から提げているホルスターを見せた。そこに納まっていたのはニューナンブM60。装弾数5発のリボルバー拳銃で、銃身の長さが2インチの短銃身モデルだ。ただ小型のわりには重いので、最近ではオートのP230や重量を軽くしたM37に変更されている場合が多い。ただ、旧式だが頑丈で壊れにくい銃でもある。
「銃が必要になるような状況にならなければいいんですが・・・・・・」
「何、大丈夫さ。緊急時以外は使わないしな。心配すんな。それより、もうすぐつくぞ。」
 気付けば、辺りの景色は一変していた。源三は高速道路を降り、あぜ道を進む。一般道路を走るようにしか造られていない車はガタガタと揺れる。
「もう少し何とかならないんですか・・・・・・この揺れ・・・・・・」
「無理だな。」
 源三は彼の言葉を素っ気無く流して道を進む。やがてあぜ道を抜け、車はアンブレラ社の私有地に入った。
 舗装された道を進み、弘樹はようやく一息ついて辺りを見回す。日はすでに傾いてきており、暗い森が妙に不気味だ。
「お、つくぞ。」
 源三の言葉に、弘樹は前を見た。道路はしばらく先で途切れており、そ子から先はフェンスで封鎖されている。その奥が、アンブレラ社の所有する研究所だ。
「なあ、研究所ってどんなところだと思う?」
 源三の言葉を、彼は聞いていなかった。何かの気配を感じて後に目をやる。すると、後の道はすでに封鎖されていた。大量の野犬によって。
「このまま進んでください。この道を戻るのは危険です。」
 車に乗っているからといって、このぼろい車があの野犬の群れを突破できるとは思えない。それに、まだ仕事を果たしていない。
「みたいだな。」
 源三もミラーでその姿を確認し、車のスピードを上げた。フェンスの側にあるカードリーダーに出発前渡されたカードキーを挿入し、中にはいる。頑丈はフェンスはがっちりと閉まり、フェンスには20万ボルトの電流が流れる。
「とにかく、行きましょう。」
 研究所の側に車をとめ、彼らは車を降りた。目の前の研究所は巨大で、弘樹はそこに何か嫌な気配を感じ取った。
「何してる。行くぞ。」
 源三に呼ばれ、弘樹は慌てて駆け出した。そのまま源三について中に入り、扉を閉める。
 彼らの背後で、頑丈な金属製の扉が音をたてて閉まった。

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