第四章
リックと別れた後、ホプキンスはパトカーをメインストリートへ向かわせた。
市民救助の予定だったが急遽メインストリートへの集合命令が出たのだ。
「ディスパッチ、こちら37号車。状況報告をたのむ」
若い女の声が答えた。カレンだ。今年で27になる女性警官だ。
「27号車、お待ちを。…メインストリートに集結したゾンビは―」
「カレン、ゾンビじゃない。暴徒だ」
「すっ、すいません。暴徒は続々と数を増やし、現在200名規模と思われます」
なんてこった。いくら銃があってもたった数十人の警官のみで制圧なんて無茶だ。
「27号車、どうしました?応答願います」
われに返ると、マイクをひっつかんだ。
「ディスパッチ、了解。27号車はもうすぐメインストリートに到着する。交信終了」
「27号車、SWATチームも全員向かってます。どうかご無事で」
「ダン、状況はどうだ?」
到着したホプキンスはジャケットを脱ぎ、トランクを開けながら隣に止まっているパトカーのそばの若者に話しかけた。
「状況ですって?目の前にあるのが状況ですよ。やばくなったら俺は逃げますよ」
いつもの軽口をたたいているが、目には怯えがありありと見て取れる。
メインストリートにはいまや十台近くのパトカー、そしてSWATチームのバンが集結しており、ものものしい雰囲気だった。
市警官たちの防衛ラインの先頭に位置するところにダンとホプキンスはいた。
そして、その数十メートル先には死者の群れがいた。
レミントンのショットガンを取り出し、9発の九ミリ弾が詰められたトリプルOバック弾を装填し防弾チョッキをつけた。気休めにしかならないが、無いよりはマシだった。
「どうして誰も撃たないんだ?」
「知らないっすよ。きっかけが無いだけじゃないすかね」
そう言うと、ダンはショットガンを撃った。
たったの数十人で200人以上もいるゾンビどもに勝てるわけが無かった。
まず、ダンが撃ったのを皮切りにすべての銃が火を噴いた。ホプキンスもショットガンを撃っていたが、攻撃を開始してすぐに周りの連中にわめき始めた。
「群れに攻撃するんじゃない!一匹に狙いをしぼれ!ダメージが分散されてろくに倒せてないぞ!」
ショットガン、短機関銃、拳銃、ありとあらゆる種類の銃声に声はかき消されてしまい、ホプキンスもあきらめて攻撃を再開した。
すでに数十匹が倒れて動かなくなっていたが、いっこうに数が減っているようには見えなかった。
そしてついに群れの先頭のゾンビが一人のSWAT隊員に襲い掛かった。それに続くようにしてゾンビが防衛ラインになだれ込み、次々と警官が殺されていき…
そして、ホプキンスは生きていた。
先頭にいたホプキンスは弾の切れたショットガンを放ると、ショルダーホルスターからリボルバーを抜いた。すぐそばでは至近距離まで迫っているゾンビの群れにショットガンを撃ち込んでいるダンがいる。後退する足を止めれば二人とも殺される。
「ダン!逃げるぞ!」
「言われなくても分かってますよ!」
二人は防衛ラインの最後部まで全力で走ると、残っていた二人の警官とともにSWATチームの乗ってきたバンに乗り込んだ。
運転席には生き残りの一人のヒックスが乗っており、残りのものは後部の収容区画に乗った。
「ちくしょう、全滅だ…はじめから無茶だって分かってたんだ」
「よせよ、ペイン。無理だとわかっててもやらなきゃならねえ事だったんだぜ。俺たちはこの町の警官なんだからな」
ホプキンスはダンの口からこんな言葉が出てきたのに驚いたが、それは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「ヒックス、署に戻ろう。いったん戻って作戦の建て直しだ。ダン、ペイン。そこのラックに残ってる銃を持て。銃がありすぎるってことはないからな」
そういいながらホプキンスも自分のスミス&ウェッソン製M29コンバットマグナムに新しい44口径弾を装填する。ダンはすでに二挺のベネリM3ショットガンを取り出し、散弾を装填すると一丁はスリングで肩からかけ、あとの一丁をうつむいているペインの足元に置いた。五分ほどすると、運転席のヒックスがホプキンスを呼んだ。
「警部、署の裏手まで来たんですが…」
ヒックスの視線の先をたどると、警察署までの最短ルートの道路を横転した大型トレーラーがふさいでいた。運転手の死体には5匹ほどのゾンビが群がっている。
歩いていくしかない。
「バンはここに置いて行こう。どのみちすぐ近くなんだ。歩いていこう」
運転席からヒックスが降り、後部のドアを開けた。ホプキンスが最初に降り、ダンはペインを促すようにして降りた。
「警部!大丈夫なんすか?」
「ダン、すぐ近くまで来てるんだぞ。それにすぐ近くにケンドの店があったはずだ。そこに行こう。ヒックス、後ろを頼むぞ」
リボルバーを握りなおすと、用心深く道路を進んでいく。道路はガソリンに引火した炎が燃え広がっており、とてつもない熱気を撒き散らしていた。
慎重に進んでいると、不意にドンッという音がし、ホプキンスのすぐそばの民家のドアが破られた。ドアを破った勢いで男が前につんのめりながら道路に飛び出してきた。
「助けてくれっ!化けモンがすぐそこに…」
ゾンビが男を追ってドアを抜け出そうとしていたが、すでにホプキンスは銃を構えていた。すぐそばではペインとヒックスもショットガンを向けている。
三人はほぼ同時に発砲し、マグナム弾を顎に、散弾を胸に受けたゾンビはそのまま家の中へと吹っ飛ばされていった。
「怪我はないか?」
「あ、ああ、大丈夫だ。あんたら警察か?」
「そうだ。ほかに生存者は?」
「この辺の連中はみんなやられたよ。俺以外に生きてるやつは見てないね」
ちくしょう。このままじゃおしまいだ。文字通りおしまいだ。
「そうか。とにかく警察署なら安全だ。ついてくるんだ、いいな」
「もちろんさ!あ、俺はジョイスってんだ、よろしくな」
「ホプキンスだ」
ヒックスが近寄ってきたゾンビを撃ち倒した。
「警部!急ぎましょう!」
「わかった!自己紹介は後だ。ペイン、お前の銃を貸してやれ!」
ペインが何も言わずにホルスターから拳銃を取り出すと、ジョイスは奪い取るようにして銃を受け取った。
「ありがとさん。さ、いこうぜ」
一人生存者を加え、ホプキンスたちは警察署へと急いだ。
先陣を切ってヘリから飛び出し、前転をするようにして着地の衝撃を和らげるとそのまま片膝立ちの姿勢になりライフルを構える。
すでにゾンビたちはヘリに気づき彼に向かってきていたがこの程度の数なら問題は無い。
強力な7.62mmライフル弾がゾンビの頭部に命中し、骨片と血肉を撒き散らし破裂する。残りの二匹はすでに降り立った隊員のHK21がばら撒いたマシンガンの弾丸で動かなくなっていた。
「ミュラー、防御陣形を築いて待機してろ」
HK21マシンガンを持った隊員に指示を出すと、マッケンジーは一人の隊員を呼んだ。
「ミゲル!デルタチームが遅れてるようだ。前方偵察に向かうぞ、ついて来い」
「はいよ」
ミゲル。本名は忘れたが、とにかくミゲルと呼ばれているこの男はマッケンジーの知るかぎり物事を深刻に考えたことがなさそうだった。だが腕は確かで、どんなに装備をかかえていても足音を立てずに移動することが出来る。ミゲル自身が「魔法のステップ」と呼ぶその特技は彼が少年時代から獲得しているものだそうで、それに目をつけたアンブレラによって引き抜かれたらしい。
ショットガンの信奉者であるミゲルは普段の訓練ではレミントン製のM870を使っていたが、今はAS12オートマチックショットガンを持っていた。重すぎるという欠点を抜けば、12ゲージの弾丸を連射できるというとてつもなく強力な代物だ。タクティカルベストの背中に特別に取り付けた皮製のケースにはすぐに抜けるようにいつものM870が入っている。
UBCSガンマチームのRV地点とされていたのはラクーン市内のハイスクールの校庭だった。彼らが到着するより先にデルタチームが来ているはずだったが、どうやら手間取っているようだった。何よりも気がかりだったのは降下直後に校舎内から聞こえていた銃声が今はぷっつりと途絶えていることだった。
マッケンジーは三人の隊員がヘリからおろした装備類を中心に陣形を築いたのを確認すると、ミゲルを連れてデルタチームの降下地点に向かって歩き始めた。