第三章

一方リックはホテルの部屋で荷物をまとめていた。町ではいまだにRPD(ラクーン市警察)の警官が総出で救助・鎮圧活動を行っていたが、長くは持ちそうにない。警察署からホテルへ向かう途中、何度も警官の死体やパトカーの事故現場を見てきたのだ。
さらに悪いことに…警官のゾンビも見かけている。
だが今はホプキンスの言っていたことが気になっていた。
「だが、あんたの言うとおりだとしたら妙だな。軍用の輸送ヘリが何機も目撃されてるんだよ」
彼は、無線を切る間際にそう言った。確かに、そう言った。その件も含め今回の事件は不可思議な点が多すぎる。
なぜ、市民がいきなり凶暴化したのか。
なぜ、伝達手段が遮断されているのか。
なぜ、軍は秘密裏に出動したのか。
たしかにSTARSとやらの言っていたことが本当だとしたら、すべてのつじつまが合う。
何らかの原因で『T-ウィルス』が漏れ出し、町中に広まった。そしてその事実を隠すために大規模な通信妨害が行われ、秘密裏に米軍やら傭兵やらの部隊が派遣された。
だが、なぜだ?
どうあがいたところで隠しきれる規模ではない。町ひとつ丸ごと化け物の巣窟になった以上、どこかから情報が漏れるのは避けられないだろう。それに軍が出動したとなれば、それは人命救助にほかならないはず。政府とアンブレラは事件が外に漏れるのを自ら助長していることになる。
通信妨害に気づいた当初は、リックは政府とアンブレラがラクーンでの事件に目をつぶり、町をゾンビたちによって自滅に追い込むつもりだと考えていた。だが今になって考えると本当に事件を隠すつもりなら、ラクーンを丸ごと…
「何てこった…」
丸ごと消す気だ。ラクーンを地図から消す。言い訳ならいくらでもできる。奇病の蔓延を防止するため、原子力発電所の大規模な事故、テロによって…
だとしたら、軍の出動も茶番になる。つまり上辺だけの救助活動だ。
本命の部隊はラクーン外縁部で防衛ラインを張っているはずだ。万が一にもラクーンを抜け出した市民を『消す』ために。
くそっ。こんな町に来なきゃよかった。
すべてはドン・パゾリーニ、あの狸オヤジのせいだ。

「意外に発達してるな」
ラクーン中心部に来たリックはつぶやいた。ロスですでにラクーンの情報はあるていど仕入れていたが、いざ目の前にするとさすがにすごい光景だった。
町に入った当初は小さい商店などが立ち並んでいて、お世辞にも都市とは呼べるものではなかった。だが中心部へ入ると急激に高層ビル群が立ち並び、そこだけを切り取ってみれば立派な都市だ。
待ち合わせ場所のスターバックスへ入ると、太った男が眼に入る。しわだらけのコート、薄くなった頭髪、深いしわの刻まれた顔。写真で見るよりもいくぶん老けて見えたが、真にリックの目を引いたのは眼光の鋭さだった。
「ホプキンス警部ですか?」
男はリックをじっと見据えると、無表情のままうなずいた。
「そうだ。あんたがGメンのカウリーだな」
「ええ」
「とっとと奴さんを捕まえて出てってくれ。ここは静かな町なんだ。あんたらが逮捕できなかった凶悪犯がいるとあっちゃあ誰も安心して生活できないんだ」
「凶悪犯じゃない、マフィアです」
「ここの住民にとっちゃあ変わらんよ。それと、ですます調はよしてくれ。若くもない男に言われると耳障りなんだ」
リックは内心苛ついていたが、顔にも出さず腰を下ろした。
くそっ。たしかに若くはない。今年で34だ。だがよく二十後半に見られるリックとしては面白くなかった。
さらに言うなら、この男―ホプキンスRPD犯罪課警部殿―はこちらの送った書類にろくに目を通してすらいない。さっき何といった?凶悪犯?リックが追っている男は麻薬・売春斡旋・殺人・恐喝…ありとあらゆる犯罪を行ってきたが、彼の判断する限りろくな計画も持たない凶悪犯ではない。頭のキレる、狡猾なプロだ。
そりゃそうだ、パゾリーニファミリーのボスとあれば。
「こっちの送った書類は見てるよな」
「ある程度は、ね。とりあえず写真をパトロールの連中に回しておいた。すぐに見つかるさ」
「ならいいが…会議は時間通りに?」
「さあね。緊急の事態でも起きなきゃ時間通りだと思うな」
「わかった。私はホテルにいる。何かあったらいつでも連絡してくれ」
「ああ。それと―」
今度はどんな文句をたれる気だ?
「ラクーンへようこそ、リック」
リックはファーストネームで呼ばれたのに驚いたが、さらに驚くことがあった。
警部は、右手を差し出している。
がっしりと握手をすると、リックは店を後にした。
ホテルで軽く睡眠し、会議をする一時間前になると、ホテルを出て警察署へ向かった。
美術館を改築したというRPDは、まるで洋館かのような雰囲気をかもし出していた。
正面ゲート前は道路があり、車がしじゅう走っている。リックはぐるりと裏までアウディを走らせると、小屋にいた警官にFBIのバッジを見せる。
「カウリーさんですね。聞いてます、地下駐車場へ車を回してください」
「どこに止めればいい?」
「誰かいると思うんで、連中に聞いてください。犯人、捕まるといいですね」
リックは自信ありげな表情を浮かべた。
「すでに捜査官が何人かこっちに向かってる途中だから安心してくれ。FBIが絶対に逮捕するさ」
それは嘘だった。政界にも何人も友人がいるパゾリーニを大々的に逮捕できるわけはなく、派遣されたのはリック一人だったのだ。
地下に車を回すと、ホプキンスが待っていた。
手にはコーラの缶を持っている。
「そろそろ来るころだと思ったよ」
ホプキンスに促され、アウディを空いているスペースに入れる。
助手席からファイルフォルダーを取り上げ、車を出ると奥の扉が目に付いた。
「あの扉は?」
「あそこは留置場だ。こんな寂れた町じゃ重犯罪は起きないが、酔っ払いだけは絶えないんだよ。今も何人かがぶち込まれてる」
「それだけかい?」
「いや…あと一人、ブン屋がな」
新聞記者か。
「なんでもうちの署長とアンブレラの癒着を追ってたらしい。適当な理由をつけて署長じきじきに逮捕命令が出たんだよ。最近はおかしな事が多すぎて困ってるんだ」
「他にもなにかあるのか」
「ああ。地下下水道には謎の武装グループが現れた。おおかたソルジャーオブフォーチュンの熱狂的な読者だろう。MP5とC4を持って特殊部隊ごっこってわけさ。あとは『洋館事件』もな」
リックのいたFBI支局にもその事件の情報が届けられていた。
『洋館事件』。
アンブレラの製薬研究施設が謎の事故により大規模爆発をおこし、全研究員が死亡したというおぞましい事故だ。付近に広がるアークレイ山地のラクーンフォレストで凶悪犯(この場合はどうやら犬のようだが)を追っていたRPDきっての特殊緊急対応チームSTARSの面々も事故に巻き込まれ、二チーム合わせて五人しか生存しなかったという。
「いまになってなぜその事件が関係あるんだ?」
「その話はあとで他の連中に聞くといい。俺はそういう類のゴシップなんかは好きじゃないんだ」
実はリックはその洋館事件にまつわる噂の内容を知っていた。
アンブレラはウィルス兵器の研究をしていて、それが漏れ出したために研究所を爆破して証拠隠滅をしたという話だ。とびっきりに不気味なのは、ウィルスに感染すると一度死に、そして蘇るという。まさにゾンビ映画だった。ただ、妙なのは噂話の出所だった。生き残ったSTARSの連中が言い出したというのだ。死んだ隊員たちはブラヴォーチーム隊長エンリコマリーニ以外は全員ゾンビと化した生物に殺されたという。しかも話には続きがあり、アルファチーム隊長にしてSTARS指揮官のアルバートウェスカーがアンブレラ社のスパイで、その事実をつかんだエンリコを射殺、自身も自分が作り出したフランケンシュタインに殺されたらしい。
最初から最後まで妙な話だった。
飲み終わったコーラの缶をゴミ箱に放り込むと、ホプキンスは駐車場の出口に向かった。リックもあとについて出ると、薄暗い廊下に出た。制服姿の警官が角を曲がっていった。
「驚いたか?まるでお化け屋敷みたいだろう」
「もっと照明が必要だな。赤ん坊だったら泣き出してるぞ」
「あいにくここには赤ん坊はいないんだよ。赤ん坊みたいな奴なら腐るほどいるがね」
先ほどの警官が曲がったのと同じ角を曲がり、階段をあがると細い廊下を抜ける。
「あそこは宿直室だ。まあデスクの上で突っ伏して寝るよりは少しだけマシなベッドがあるだけだ。次の予算にはあたらしいベッドも組み込んでもらうつもりさ」

「だとしたら良い枕も必要だな」
ホプキンスが声をあげて笑った。
「それと20インチのテレビもな!おっと、ここから先はあんたにも関係ある場所だ」
扉を開けると、ようやく警察署らしいオフィスが目に入った。すでに何人かは出払っていたが、五人ほどがまだ残っている。 ラクーンシティは非常に犯罪発生率が低く、犯罪課という課が殺人、窃盗、傷害といった物騒な事件を取り扱っている。もうひとつが統合交通課で、ここが巡回や交通整理をとりしきる。リックがいるオフィスは犯罪課だった。
「警部!ケビンがJ’sバーでまた目撃されました!それと…」
「ったく、あの青二才はまだサボってんのか。マービンに何とかしろって言っておいてくれ。酔っ払った警官は悪い印象を与えるからな。それとなんだ?」
「ええ、あのー…町で三件の暴動が起きたそうです」
ホプキンスが眉をひそめるのが見えた。
「なんだって?喧嘩じゃなく、暴動?」
「ええ…複数の人間が一人の男に素手で襲いかかっているのが市民に確認されてます」
「連中は向かってるんだな?」
「はい。巡回中の連中が行きました。あと、一時的だとは思いますが電話が不通になってるそうです」
「間が悪いな。まあすぐに復旧するだろう」
この会話を聞いていたリックは不審に思ったが、すぐに頭の隅においやられてしまった。
すぐに他の警官が近寄ってきた。手には書類を持っている。
「パゾリーニらしき人物がラクーン公園の池のほとりにいたようです」
警部よりも早くリックが反応した。
こんなに早く逮捕できるとは。
「なんだって!いつだ!」
「え、えー…三十分ほどまえです。今、レイモンドが確認に行ってます。警部、こりゃラクーン市警のお手柄ですかね?」
「相手は殺人もしてるんだぞ。笑える話じゃないな」
言葉とは裏腹にホプキンスの顔には安堵の表情が浮かんでいる。
リックが手近な椅子に座り連絡を待っていると、仕切りで仕切られた小部屋からホプキンスが出てきて、リックを呼んだ。表情を見れば、答えはわかる。
「人違いだ。期待させてすまなかったな」
内心とても気落ちしながらも、微笑を浮かべて対応する。
「大丈夫。パゾリーニは予定にない犯罪は犯さないんだ。それに、彼が一人で行動してるときはなおさらね」
「だからといって放置しとくわけにもいかんだろうが。さて、もうすぐ会議だ。行こうか」
ホールにつながる廊下には三人の少年がどやしつけられていた。 「おおかた万引きかなんかだろう。この町のガキどもはエネルギーを発散するにはセックス、軽犯罪ときてる。まったく…」
「先が思いやられる、でしょ?」
「そのとおりだよ。おい、ギル!こってり絞ってやれ!」
ギルと呼ばれた警官は頷くと、一層声を張り上げて怒鳴り散らしていた。今にも強烈なパンチをお見舞いしそうな剣幕に少年たちは縮み上がって何もいえなかった。
「ここが、われらがRPDご自慢の中央ホールだ」
まさに、美術館のようだった。
ぐるりと囲む形で二階、三階部分の廊下が頭上に控えており、正面ゲートに通じる大扉は細かな彫刻が施されている。大扉前の三段の階段を下りると大理石の床にはRPDのトレードマーク、そして顔をあげると花瓶のような物を抱えた女神像が目に入る。
「すごいな…」
「ウチの署長はイカレてるが、こういった美術品に目が無いんだよ。ただでさえイメージを悪くしているあの署長が少しでも署に貢献してくれるなら頭痛の種が減るってもんだがね」
ホールには市民が何人かいて、警官に苦情を言っている。
「病院が満員なんだよ!それに電話も不通!いったいどうなってるんだ!」
「隣の部屋から変なにおいがするんだよ。なあ、不気味だから何とかしてくれよ」
「彼氏に殴られたの!あいつを逮捕して!」
他にも何人かいたが聞き取れたのはこれだけだった。具合が悪そうに地べたに座り込んでいる男もいたが、すぐに警官のほうに目をやった。
対応しているのはたった二人の警官で、てんてこまいになっている。
「警部!なんとかして…」
「悪いな、俺たちはこれから会議なんだ。もう少しがんばってくれ」
いくつか扉を抜け、会議室に入るとすでに全員が席についていた。
「遅かったな。十分遅刻だ」
ひょろりとした長身の男がホプキンスに向かって文句を言った。しきりに体を掻いており、目の下にはくまができている。肌が青白いさまはまるで歩く死人のようだ。
「彼は統合交通課長、マーティン・ブレントだ。マーティン、彼がカウリーだ」
「よろしく。さて、早く始めよう」
それが起きたのは、それから二時間ほどパゾリーニファミリーの歴史を話し、いよいよパゾリーニ本人の話を始めようとしたときだった。
会議室の扉が勢い開け放たれ、警官が飛び込んできたのだ。
ブレントが咳をしながら怒鳴った。言葉の途中途中で咳が入り、途切れ途切れになっていた。
「い…いったい、何…何のつもりだ!!会議…」
ブレントの言葉はそこで途切れた。警官の姿に驚きのあまり、途切れたのだ。
そこにいた全員が彼を見て唖然としている。リックだけがかろうじて口を開いた。 警官の制服は血まみれだった。顔の右側にも血がべったりとこびりついている。手には拳銃を握り、人差し指がトリガーにかけられていた。
「どうしたんだ?」
「ホールにいた男が…その…座り込んでいた男が暴れだして、ドニーが殺されました。やむを得ず発砲を…」
自分がしたことに自信がもてないのか、しじゅう唇をなめている。
ホプキンスがようやく話しかけた。
「武器は?拳銃か?ナイフか?」
「それが、素手で…いや、口です…」
「何だって?すまん、もう一度言ってくれないか?」
「近寄っていったドニーの首筋に噛み付いたんです!血が噴出して一面血の海です…それで、私は銃を抜き、胸に3発撃ち込みました」
「わかった。今回の件で君が処罰されることはないだろうが、とりあえず調書をとる。誰か彼をオフィスに連れて行ってやってくれ」
ほとんどすべての警官・刑事が会議室を後にし、残ったのはリック達と刑事が二人だけだった。
「今日はとんでもない一日だな。ブレント、ドニーの家族への連絡は…」
いまやブレントは死にかけと言ってもさしつかえないほどになっていた。目は血走り、かきむしった場所から血がにじんでいる。
「ブレント!どうしたんだ!」
残っていた二人の刑事が彼らのやりとりをじっと見つめている。
「すまん…昨日から具合が悪くてな。病院に行こうにもその病院が満員ときた」
「無理をしすぎたんじゃないか?それにしても、酷い状態だぞ。すぐに休め」
新たな警官が飛び込んできた。さきほど、暴動と電話の不通の件を言っていた警官だ。ブレントとホプキンスに町中の警官からよせられた報告をまとめた書類、そして現場のポラロイド写真を渡した。
「ヤバい事になってますよ!町中で暴動が起きてます!死傷者数はうなぎのぼりで、もう何十人も死んでます!電話もいまだに不通で、指揮系統が混乱、町中パニックですよ!」
「休んで…られんな」
今にも倒れそうだったブレントは足に力をいれて踏みとどまると、交通課長としての威厳を取り戻した。
「巡回している全員に無線連絡。現時点で巡回任務を解き、各自パトロール区域内の暴動の鎮圧に全力でとりくむように伝えろ。それと…」
書類に目を通していたホプキンスが目を丸くしている。
「全員に気を抜かないように連絡するんだ。報告は十分おきに。いいな?」
「わかりました!」
刑事と警官がいなくなると、ブレントは二人に向き直った。
「この状況じゃ休めんな」
「仕方あるまい。それよりこいつは…」
「ホプキンス、もしかすると…ジルやクリス達が言っていたのは現実のことかもしれんな」
ブレントはさきほどの警官がもってきた急場しのぎの報告書とポラロイド写真を見せた。
報告書にはいたるところに人食いやらゾンビやらの文字が書かれており、写真のほうは死体としか思えない男が歩いてるものだった。
「…わかった。俺も町に出て市民の救出に行くよ。ブレント、その間ここを頼むぞ」
ブレントは精一杯の笑顔を浮かべた。
「まかせておけ。署員のほとんどが出動とあれば暴動も収まると思うが、たとえ何があってもここには傷ひとつつけさせんよ」

二人が緊急出動となった警官たちとともに駐車場へ戻る途中、警官たちの話が二人の耳に届いた。
「どうやら電話だけじゃなくてインターネットも使えないらしいぞ」
「新手のテロか?まあ今は気違いどもの対応で手一杯だからそっちは後回しになるだろうな」
ネットも使用不能?どういうことだ?
リックの頭のなかですべての線がひとつの点につながり始めていた。
STARSの話、アンブレラ社の陰謀、ホールにいた連中の話もある。異臭、病院が満員。全ての状況がSTARSの話と符合する。病院には感染したとしらずに奇病にかかったと思い込んだ市民が殺到し、家でそのまま朽ち果てたものは異臭を発しながら復活への時をいまかいまかと待っているのだ。
いや、馬鹿げてる。
ホプキンスが話しかけてきたことで、現実に引き戻された。
「頼みがある。こっちの通信機で外へも連絡はとってみるが、電話が不通なんじゃどうしようもない。あんた、FBIへの直通連絡手段はあるのか?」
「ああ、ラップトップには専用の独自回線がはいってる」
「それを使ってFBIに連絡してくれ。州軍の応援を要請したい。話によれば町で暴動が起きてないところはないらしい。とても手が足りんよ」
「わかった。ただ…」
「わかってる、俺もあんたと同じことを考えてるはずだからな。STARSの話だろう」
不意をつかれ、リックは驚いた。
「あんたが知らないフリをしてるのは分かってたさ。目を見ればわかる。まあとにかく、状況から判断するに連中のいっていたことが正しかった可能性がある」
「信じるのか?」
「この目で見るまでは何とも言えんがね。ほら、これを持っていけ」
ホプキンスはリックに無線機を渡すとパトカーに向かった。
ふと、もう彼には会えないのではないかという考えが頭をめぐったが、すぐに考え直す。
ホプキンスはタフな男だ。すくなくとも見た目はそう見える。
すぐにまた会える。

何度もふらふらと歩いている市民、いやゾンビの姿を目にしてきていたが今は時間が無かった。すぐにも連絡をとらなければならないのだ。
そこらじゅうで事故が起きているために戦場のようになっている町を走るのは並大抵のものではなかったが、三時間ほどかけてようやくホテルの地下駐車場へ着くと、所定の位置に車を入れる。
駐車場の薄明かりの中、数人の男が倒れている女に群がっているのが確認できる。
躊躇はしない。ホテルまでの道のりで判断するに足るだけのものを得た。
銃を抜くと、狙いをさだめる。 そう、躊躇はしない。そして一気に引き金を引いた。

はっと我にかえる。 まずい。もう一時間以上も経ってる。ラクーンに来てからのことを思い返していたために時間が過ぎていくのに気がつかなかった。
拳銃のマガジンには取り出したばかりの9mmシルヴァーチップ弾を装填してある。パラベラムが貫通力を重視しているのに対し、シルヴァーチップは対象の内臓器官を挽き肉に変えることを重視している。
スライドを軽く引き初弾が装填されているのを確認すると、撃鉄を起こした。
左肩に荷物を詰め込んだキャンバス地のバッグをかけ、右手に拳銃を握る。
さて。どこまで出来るかは分からないが、ここまできたら精一杯反抗させてもらうとしよう。

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