第一章
こんなことになるなら休暇をとっておくべきだったな。
この考えが浮かんだのはこれで何度目だろうか。五回、十回、いや、百回は繰り返してる気がする。十五階のホテルの自室にいたが、外の騒ぎはここまで聞こえる気がした。
窓から外を見やると、向かいのビルの屋上のネオン看板(今ではランプは灯っていなかったが)見える。
『ようこそ!ラクーンシティへ』
今となってはここに数語付け足さなきゃならないだろう。
『ようこそ!死者の町ラクーンシティへ』
さすがに十五階ともなると町が一望でき、そしてそれらは否応なく彼の目に飛び込んできた。
まるで大地震か何か別の大災害にでも遭ったかのように壊滅しきった町。いたるところで煙が上がり、町中に警察、消防、救急、ありとあらゆるサイレンが鳴り響いている。視線を下ろし、通りを見下ろすと町の人々がパレードのようにぞろぞろと歩いている。もしもパレードなら、それはハロウィーンのパレードだろう。それも全員がトムサヴィーニも真っ青の特殊メイクを施した。
だが彼にはそれがパレードでも、ましてやうだるように暑いこの九月にこの町がハロウィーンをやるはずもないことは分かっている。
これは、死者たちの徘徊なのだ。
そう、馬鹿げてはいるがこれは紛れも無い真実で、自分はこの映画のような事件の登場人物の一人になっている。
窓際を離れると、ベッドサイドのテーブルにおいてあるラップトップを起動し、ネットワークを確認した。独立回線を確立し接続されているため、町の通信網が使用不能な中でもネットに繋がっていた。
よし、まだ接続はできる。バッテリ切れ寸前だがなんとか間に合うかもしれない。
ネットワークにつなぐとログイン画面を呼び出し、いそいでIDとパスワードを入力する。エンターキーを押すと画面に無機質な、だが絶望を感じさせるメッセージが表示された。
『現在このIDは利用不能です。 米国連邦捜査局』
「何だって…?」
FBI捜査官リック・カウリーは、このとき初めて自分たちの状況を『完全に』理解した。支援は絶たれている。誰がやったのかはしらないが、外部からの支援はまず呼べないだろう。そして、政府はこれからも何食わぬ顔でアンブレラ製薬と取引をする。
さようなら、ラクーンの人々よ。私たちはこの事故を忘れません。
それで万事うまく収まるわけだ。
ベルトにぶら下げた無線機をひっつかむと、送信ボタンを押した。
「リックだ。こいつはかなりヤバい状況だ。…ああ、そうだ。この町でもう一度朝日を拝める奴は一人もいないだろうよ」