第2章 アレックス編

警察官、ジミー・ロセフトはその光景に我を忘れそうになった。
それは人の集団でもあったが同時にあらゆるものを飲み込む狂気と腐臭。
目の前の集団は腐っていた。
外見から見てそれは生きているが不可能のはずなのにそれは立ちジミーたちに向かって行進する死者の群れ。
ジミーの脳裏にははっきりとゾンビと言う文字が浮かび構えていた銃が震える。
昔、学生時代に流行ったゾンビ映画のワンシーンが目の前に現れたかのようだ。
ゾンビ達の行進に後押しされながらも歯軋りをしジミーは構えていたSIG P226を迫り来るゾンビに向けトリガーを引いた。
他の警官同様放たれた弾丸は彼らの体に弾痕を刻みどす黒い血を流させるもののその進行は止まらずゆっくりとジミーたちに近づいてくる。
連続して聞こえる発砲音が空気を震わせ辺りに響く。
ジミーは全弾撃ちつくしたSIG P226をすぐにホルスターに仕舞いこむとバリケードにしているパトカーの中からショットガン、SPAS12を取り出し残り10メートルの距離まで近づいてきたゾンビたちに向け乱射する。
恐怖で頭が埋め尽くされ汗が吹き出し手に平に汗が溜まり握っていたSPAS12を滑らしうまく照準が出来ない。
ゾンビたちは数を成しジミーたちとの距離を縮め危険を察した警官が叫ぶ。

「逃げろ!」
「くそ!なぜ死なない!」
「来るな・・・うわああああぁぁぁぁぁ」

無茶苦茶に銃を撃ち出したほかの警官達は反撃するすべもなく追い詰められ絶命していく。
かろうじて生き残ったジミーはSPAS12を投げ捨てるとホルスターからSIG P226を取り出すとマガジンを抜き取りポーチから予備のマガジンを取り出すとそれをセットしスライドロックを降ろし弾丸を装填しながら自分が乗ってきたパトカーまで走った。

アレックスはパトカーから警官達がやられていく様子を見ていた。
迫り来る人の群れ、狂ったように警官達に襲いかかりその肉を食らう姿はやはりゾンビを連想させる。
同じく後部座席で前方座席と遮断している金網に顔をつけながら後ろの少年が叫ぶ。

「おい、なんだよあれは」
「し、知るかよ」

未だに信じられずじっと目の前の惨劇を見ていると人の群れを掻い潜ってくる1人の警官がいた。

(ジミーか!?)

パトカーに向かって走ってくる人物がジミー・ロセフトだと分かったアレックスはこの状況を理解しすばやく運転座席へと移動するとパトカーをUターンさせる。
車が反対を向くと同時にジミーがパトカーに激突しながら止まり助手席に乗り込むと窓から上半身を乗り出し人の群れへと発砲する。

「出せ!」

合図と共にパトカーは動き出すとそのまま市街地を走り抜ける。
短時間で街の様子はかなり変わってしまった。
先ほど通った道の歩道では人が人を襲う地獄絵図へと変わりその光景は現実のものか と疑うほどだ。

「おいおい、どうなってんだよ」

後部座席で手錠を掛けられた少年が呟く。
逃げまとう人々の横をパトカーが通り抜け停車している車を横を抜けようとした瞬間目の前に人影が写りその影を跳ね飛ばしパトカーに衝撃が走る。
ハンドルを切り損ねたパトカーはビルの壁に激突する。
すさまじい衝撃が車内を襲いアレックスはハンドルに胸を打ちつけ意識が飛びそうになるがかろうじて意識を現世にとどめる。

「うっ・・・」

胸を押さえ動かなくなったパトカーから出るためドアを開け床に体をつけながら必死に出ると大破したパトカーに背中をつけ膝に力を入れ立ち上がる。
反対側の助手席からドアを蹴り飛ばしパトカーから出てきたジミーは頭を振りながら後ろのドアを開け中から手錠をしたままの少年腕を握る。

「い、痛てえって!」
「うるさい!」

少しイラだった口調で褐色の肌を持った少年をパトカーから引っ張り出すと左手に持っていたSIG P226を近づいてくる不振人物に向けて発砲する。
数発の発砲音のあと乾いた音を立てながら薬莢が地面を転がり不振人物=ゾンビは後ろ向きに倒れそれを見ていた少年が顔を顰める。
アレックスはグロック17を両手でしっかりと握りながらジミーに近づくとジミーは道の遠くを見つめながら声を出した。

「あちらは化け物どもでいっぱいのはずだ。少し遠回りになるが警察署に向かうぞ」

うなずいたアレックスを横目で確認しながらジミーは少年の腕を引っ張りながら歩き出し少年は不機嫌そうにジミーを睨む。
アレックスはそのまま後ろから迫り来る死者達の行進を気にしながら早足でジミーの元へと向かった。

ガソリンスタンド店長のカール・ハイドは店の前で起こった惨劇を息を呑みながらただ見つめていた。
数分前に走って何かから逃げていた女性は履いていたハイヒールが脱げて転びそのままその何かに襲われたのだ。
いや、性格に言うとそれは人間なのだがその外見はとても人間のものとは言えない。
服は大きく裂け避けた部分から臓器がこぼれその男の顔はとても青白く生気がなかった。
しばらく女性は抵抗してその男から離れようとしていたが次第に体力が切れ一気に男は彼女の首元に噛み付きその命を奪ったのだ。
今ではその女性も見るに無残な姿に変わり男はその女性に飽きたのか次の獲物を狩るためにカールのほうをじっとその虚無な瞳で見つめる。
背筋が凍るほどの寒気を感じたカールはゆっくりと後ろに後退する。
立ち上がった男は腕を開け唾液をたらしながらその口を大きく開け次の瞬間、大きな音が鳴り響き男の体が揺れると同時に男の胸から血が流れる。
すぐにその音が銃声だと分かったカールは男の後ろに目を向けるとそこには銃を構えた警官と腕を後ろに回した褐色の肌を持った少年にどこかの警備会社のウインドブレーカーを着た若い男がそこに居た。
警官は片手で構えたSIG P226を連射しながら男に近づき撃たれているのにも関わらず男は顔色変えず撃たれた反動で体を揺らす。
警官が男の顔面に銃を向けゼロ距離の状態でトリガーを引くと放たれた弾丸が脳を貫通し肉片と脳漿が静かなガソリンスタンドの地面に散らばりその一部がカールの足元にべちゃりと落ち男は後ろ向けに倒れてた。
警官はカールを睨みながらゆっくりと近づくと上から下を見渡した後声をかけてきた。

「大丈夫か?」
「あ、ああ・・・なんとか・・・」

改めて自分の体を見ると強く握り締めた拳は小刻みに震えていた。

カールはとりあえず3人をガソリンスタンドの店内に招き入れると警察官の男に事情を聞くことにした。
警官から話される信じがたい話の内容にカールは半信半疑で聞くがやはり先ほどの出来事で信じるしかないようだった。

「・・・・つまり街は化け物に襲われたってことだな?」
「ええ、言えばそうですね。見たところ外見は人間そのものですが中身が違うようです」 「はっきりしないな」 「私分からないんです。突然の出来事だったので・・・・」

警官の困惑した表情を見てカール自信も不安を抱く。
相手の警官は改まった表情を見せながらカールに向き直ると話を続ける。

「ここ居続けるのも危険です。私達と共に警察署まで同行願います」
「・・・ああ、私も命は惜しいからな」

そういうとカールは座っていた椅子から立ち上がるとカウンターの下を探りながらあるものを取り出した。
それはリボルバー拳銃 M29 44MAGだった。
マグナム弾を使用するそれはどんな生物でも一撃で殺傷してしまうほどの威力を持つものだった。
カウンターに置かれた拳銃を見つめていた警官はカールに質問する。

「銃を撃った経験があるのか?」

警官の後ろにいた警備会社のウインドブレーカーを着た青年がカールに聞く。

「まあな。妻が亡くなる前はよく友人がらみでクレー射撃に行ったものだ」

そういうとカールはハンマーを親指で起こすと両手でM29 44MAGを握る。

「そういえば私の名前を言ってなかったな。カール・ハイドだ」
「ジミー・ロセフトです」
「アレックス・マクレイスです」

カールは左手を差し伸べ警官と青年に握手と自己紹介をお互いに済ませ後ろでおとなしくしていた褐色の肌を持つ少年に握手をしようとしたが両手を後ろに回しかつ手錠を掛けていたのを見て手を引っ込める。

「お前の名前も聞いてなかったよな?」

警察官、ジミー・ロセフトは自ら手錠をかけた少年に質問をすると少年はジミーをじっと睨み沈黙を続ける。

「・・・・・まあ、言わなくても・・」
「ラリー」
「??」
「ラリー・ダリアルスだ」

一言、少年はそれだけを呟く。

「よろしくなラリー」

そういうとジミーはラリーと言う少年の腕を掴みながら外へと出る。
アレックスとカールもそれに習い外へと出た。
外に出てアレックスが最初に気づいたことは先ほどまで晴れていた空は今にも雨が降り出しそうな曇り空になっており所々で雷が鳴っている。

「急がないとな・・・」

4人はそのまま無人となった道路の中央を警戒しながら警察署を目指し歩き出した。

To be continued.