第2章 トム編

トムたちは駆けつけた教職員たちによって教室からの出るように言われ今は食堂で今後のことをリョウ、マーシャ、ローズと共に話をしていた。

「で、どうするの?なんか他のクラスでも倒れた人や暴れている人がちらほら出ているようだけど・・・」

自販機で買ったオレンジジュースを飲みながらその場にいた3人に問いかける。

「どうせ授業できないだろうし家に帰るのは?他の生徒も帰っているやついるし」
「いいのかな?勝手に帰って」

リョウが不安そうにそう呟く。

「いいんだよ。先生も生徒に構っている余裕なさそうだしさ」

それを聞いていたマーシャが机の上においていた鞄を背負うとローズを連れてどこかへ行こうとする。

「帰るのか?」
「ええ、授業をしないんだったら学校にいても仕方ないし」

手を振りながら食堂を後にしたマーシャとローズを見たトムは紙コップに入ったコーラを一口飲むとリョウに問いかけた。

「俺たちも帰ろうか」
「そうしよ」

それを聞いたトムは紙コップに入ったものを一気に飲み干しそれを握りつぶすとゴミ箱に向けて投げゴミとなったそれは空中で回転しながら中へと入った。

校内にある駐輪所へと向かったトムとリョウは止めてあったバイクの傍によりリョウはトムにヘルメットを差し出し受け取ったのを確認するとバイクの鍵穴に鍵を差込み右へと回しハンドル部分を捻るとエンジンが掛かる。
リョウもヘルメットを被りバイクに跨るとトムも座席後方に跨りそのまま2人を乗せたバイクは学校を後にする。
学校を後にした2人は家に帰ってやることもないので市内にあるゲームセンターへと向かうことにするとその進路を家から都内へと向ける。
大きな交差点が見え始めたと思うとリョウはバイクのスピードを落とすと停車させなぜ停車させたのかトムにも分かった。
目の前で行われていたのは軍隊による検問だろうか。
だが、よく見るとフェンスを張り巡らし封鎖しているようにも見える。
多くの車両がUターンする中、リョウはバイクを止め2人はバイクから降りると警備をしている州軍兵士に話かけた。

「あの〜なんで道路封鎖してるんですか?」

リョウは恐る恐るM16A2アサルトライフルを持って警備をしている若い兵士に声をかけると兵士は苦笑しながら問いに答えかける。

「暴動が広がりつつあるから封鎖しているんだよ。君たちも危ないからあまり外に出ないほうがいいよ」

顔を顰めゲームセンターにいけなかったことを悔やむ。

「それっていつぐらいから通行可能になるんっすか?」

今度はトムが兵士に聞いた。

「う〜ん。分からないけど暴動が鎮圧されれば通ることは可能だけど少し難しいかな」

兵士はそういうと彼らの耳元で彼らにしか聞こえない声で言った。

「これは秘密事項で本当は話してはいけないんだけどもうすぐ緊急避難命令がこの街にしかれるかも知れない。君たちもいづれこの街を出なきゃいけなくなる」

そう言って兵士は厳しい顔つきになりながら中心部のほうを見つめる。
それと同時に周りにいた兵士が慌しく動き回る。

「どうしたんだろ」

リョウは周りの異常に首を傾げる。

「・・・ここも危なくなるかも知れないし君たちは早く・・」

帰るんだと兵士が言いかけたとたん遠くから自動小銃の銃声が聞こえ兵士はトムとリョウの肩を掴みしゃがませる。
未だ続く銃声の中、兵士はM16A2のセフティを解除すると震えている2人に叫ぶように話しかけた。

「いいか!まっすぐ家へ帰るんだ!この街はもう普通じゃない!」
「普通じゃないってどういうことですか!?」

そばで聞いていたトムが言い返す。

「とにかく危険なんだ!早く家まで逃げるんだ!」

『来たぞ!!』

他の兵士が叫びそれと同時に悲鳴と何かが潰れるような音が聞こえる。
2人をかばいながら兵士は彼らを立ち上がらせM16A2を‘何かに向けて’構える。

「行け!」

兵士が叫ぶと共に構えていたライフルが火を噴きそれが合図となり2人は急いでバイクに跨るとリョウはすぐさまエンジンをかけようとするがなかなか掛からない。

「クソ!どうしてだよ!」

焦りつつもリョウは何度もエンジンをかけようと同じ動作を繰り返す。
すると後方にいた兵士が何かを叫ぶとトムは思わず首を後ろに向けその‘何か’を目の当たりにする。
それは一言で言うなら犬だ。
だが、その外見は犬と言うにはあまりにもふさわしくなくそれは普通なら死んでいてもおかしくない状態だ。
ゴールデンレトリバーの外見したそれの皮膚はずり向け右胸部からは骨が見え耳は一部が消失しそれに臭かった。

(ヤバイ・・・)

トムは額から冷たい汗を流しながらも鞄からM92Fベレッタを取り出すと鞄を投げ捨てる。それに反応した犬は走り出しトムに向かって飛び掛ろうとした。
だが、その瞬間にバイクのエンジンがかかりバイクは走り出す。
犬は獲物を取り逃がすまいと地面に着地すると再び走り出し獲物が乗っているバイクを追い始める。
普通ならそれはバイクになど追いつけないはずなのだがそれは常識を上回る速さでバイクを追いかけている。

「もっとスピードを出せ!」
「ちょっと!何がいるんだよ!」
「いいから運転に集中しろ!アイツは俺が何とかする!」

左手で持っていたヘルメットを投げつけ地面を転がりそれを飛び越えなお追いかけてくる犬にトムは体を捻り後ろを向くと右手で握っているM92Fベレッタをその犬に向けて狙いを定めトリガーを引いた。
放たれた9mmパラベラム弾は地面で弾けそれに怯むことなくその犬は追いかけてくる。

「クソ!!」

トムは連続して弾丸を放ち続けるがその弾丸は追いかけてくる犬に当たることなく地面にはじけ続ける。
バイクによる振動と不安定な場所からの射撃、動き回る犬にうまく命中できない。
トムは静かに舌打ちをしながら再び照準を犬へとむける。
後ろから聞こえてくる銃声を気にしながらもリョウはたくみにハンドルを操作し無人になっている道路を走り抜ける。

(誰もいない?)

ふとリョウはそんなことを思った。
確かに誰もいないのだ。あるのは放置された車や散らばるゴミ、そして鼻を付くような匂いそして、目の前に人影が見えそれを通り過ぎようとした瞬間、リョウは横目でその人を確認するがどこかぎこちない動きをしているようであったが正確には確認できず走り去っていく。
そのことに気づかないままトムは追いかけてくる犬へと集中し続け犬との距離は1mぐらいまで縮まった。

(よし!)

トムはこの距離なら当たると再びM92Fベレッタを向けると連続してトリガーを引いた。
まっすぐ放たれた弾丸は犬の鼻先と頭部に命中し犬はそこで転がりながら地面を回り動かなくなった。
それを見届けたトムはスライドが後退し停止したM92Fベレッタをしっかりと握りながら正面へと向き直り左手をリョウの肩へと乗せる。

「終わったの?」
「ああ、なんとかなった・・・」

それを聞いたリョウは走らせていたバイクのスピードを減速させる。
2人の乗ったバイクはそのまま住宅地区へと入り込みある一軒家の前へと停車すると2人はバイクから降りその家を見つめる。

「帰ってこれた・・・」

安堵の息を漏らしながらリョウはその家の玄関へと向かい玄関のそばにあった植木鉢を手で持ち上げ違う場所へと置く。
先ほどまで植木鉢があった場所に一つの鍵が出現しリョウはそれを手に取ると玄関の扉の鍵穴に差し込むとロックを解除しトムを招き入れて再びドアを閉めると鍵をかけた。
2人はそのまま心身ともに疲れきった体を引きずりリビングにあるソファーへと同時に座り込みため息をつく。
しばらく無言のまま時計の針が動く音が室内を支配する。
トムは時計を見ながら10時になると言うのに外が暗いことに気づくと声を出す。

「そういえば午後から雨だったな・・・・」
「え?そうなの?」

驚きながらリョウはしばらくし納得したようにうなずくと口を開ける。

「そういえば襲ってきた何だったの?」

その質問にトムは未だ握っていたオートマチック拳銃を見つめ答えを返す。

「犬だったけど・・違った。あれはどういうに表現すればいいんだろう」

うまく説明できる言葉がなくしばらく頭を悩ませるとトムはあるものにその外見が似ているのに気づきひらめいたかのように声を出す。

「そう!敷いて言えばゾンビ見たいな犬だった」
「ゾンビ?なに僕をからかってるの」

トムを睨みながらリョウは顔を顰め必死に首を振るトムを見る。

「ち、違うって!ただあの犬すごく体がボロボロだったしそれに・・腐っていたから・・」

トムはそこで黙り込み再び沈黙が続く。

リョウはため息をつきながら立ち上がるとキッチンのそばにある冷蔵庫を開けそこから2リットルペットボトルを取り出すと透明のコップにその中身を注ぎ二つのコップを持ってソファーに戻るとそれをトムへと差し出す。

「ありがと」

受け取ったコップの中身を見てトムは顔を歪めるが覚悟を決め一気にそれを飲み干しコップを机の上に置く。

「うえ〜日本人ってよくこんなの飲めるよな・・・」
「別に飲めないって分けじゃないだろ?お茶ぐらい」
「別にまずいんじゃないんだけど・・・」

どちらかと言うと不味いにも属さないがうまいのも属さないもの。トムに言わせればこれが麦茶と言うものらしい。
だが、リョウ本人に聞くと日本人でも不味いというお茶があるらしいが自分がトムがもし飲んでしまったら他界するだろう。
リョウは平気な顔でお茶を飲み続けそれを見たトムはため息をつきスライドが後退したままのM92Fベレッタを机の上に置き立ち上がる。

「悪い、電話借りるぞ」

それに対しリョウはコップを銜えたまま無言で頷く。
リョウの家に置いてある電話の場所を知っていたのでトムは案内なしでその場所へと向かった。
彼がリビングを出るとリョウはじっとM92Fベレッタを見つめた。
この国に来て銃を見るのは初めてではないが実際に目の前にあるとその存在に圧倒されそうになる。
日本では見ることもなかった圧倒的な殺傷能力を持つ力を放つ装置をゆっくりと手を伸ばしそれを手にとって見る。
触ったのははじめてである。不安など消し飛んでしまうぐらいに。
今から考えれば今日起こった出来事はあまりにも異常だった。
暴れ狂う生徒、変貌する街の様子、そして、自分が未だ目にしていない何か。
その何かを後ろで、この拳銃を持って相手をしていたトムにしか分からない。
彼はゾンビと言ったがそういうものは存在しないはずだと思っていたが先ほどのトムの真剣な目つきを見て考えが変わる。

(まったく・・・何だってんだよ)

顔を歪めリョウはその銃を再び机の上に戻した。

トムは受話器を手に耳にそれをあて一定の割合で流れてくる電子音を聞いていた。
しばらくしてそれは止み電話相手に繋がるとトムは声を出していった。

「あの母さん?」
『あれ、どうしたの?学校は?』
「いや、それがさ〜色々あって今リョウの家にいる」

電話相手のトムの母親からはため息が返って来ると今度は真剣な口調でトムに話しかけてきた。

『まあ、いいわ。トムよく聞きなさい。今すぐリョウ君を連れてサウスパーク図書館へ行きなさい』
「へ?なんで」
『暴動による被害が拡大して住宅地区まで伸びているからよ。テレビのニュースで避難勧告が発令したわ。私も逃げる準備をしているから貴方たちは先に行きなさい』

それを聞いてトムはこの辺りが静かな理由が分かった。
そして、母親の言葉を聞いて躊躇する。

「でも・・」

口ごもったトムに対して彼女はため息をつくと続けて言葉を発する。

『大丈夫よ。父さんももうすぐ家に帰ってくるし私たちもすぐに後を追うわ』
「・・・いいけど気をつけるよ。実を言うと俺もさっき変なやつに追いかけられたばかりだしそれに相手は・・・・」

すぐにあの犬を思い出す。背筋が凍りつきそうになり身震いしながらも話を続ける。

「とりあえず、図書館へ向かえばいいんだな?」
『ええ、そこで軍の車両が回収してくれるそうだから待ってればいいのよ』
「わかった。でも、これだけは言うぞ。絶対に銃は携帯してくれ」

息子の真剣な口調に彼女は何かを感じ取り答えを返す。

『わかったわ。じゃあね・・』

そこで電話は切れトムは無言のまま受話器を置き沈黙したまま立ち尽くす。
覚悟を決しそのままリビングに戻ると手を頭に回して呆けているリョウがいた。

「あ、お帰り」
「・・・ここを出るぞ」
「ん?」

疑問符を浮かべたリョウがこちらを見る。
トムはM92Fベレッタを持ち上げるとマガジンを抜き取り殻のマガジンを見てため息をつく。

「弾あるか?」
「どうだろ・・ってか何で家を出るんだよ。帰るのか?」
「違う。さっき親に電話したんだけどなんか避難命令が出されたらしいから避難場所に向かう」 「ふ〜ん」
「お前も準備をしたらどうだ?外はもう危ないし護身用に何か持っていったら」
「・・・・弾あるかも知れないからちょっとついて来て」

リョウに案内されトムは階段を登り2階へに来るとリョウはドアの一つを開け部屋の中に入る。
中にはベットと小さな机にクローゼットがあるだけだった。
そして、リョウは机のそばまで近寄ると引き出しを開け中からリボルバー拳銃と弾丸の箱を取り出した。

「なんだそれ」 「父さんがここに来て買った銃だよ。弾も買ったんだけどこの銃の専用の弾丸じゃなくて放置されたまま。父さんも僕同様銃のことなんてわかんないし」

そう言うと弾の入った箱をトムに投げるとそれを受け取ったトムは箱に書かれた文字を見る。

(9mmパラベラム・・・よし)

使える弾丸だと分かったトムは中身を机の上に出してそれをM92Fベレッタのマガジンに込め始める。
不慣れた手つきで込める様子を見ていたリョウはクローゼットを開けあるものを取り出した。
それは日本から持ってこられ‘剣道連盟’と書かれた一振りの木刀であった。
それを2、3度縦に振ると久々の素振りに笑みを浮かべる。
リョウが日本で学んだ剣道の技術はすばらしいものである。
剣道暦8年のベテランで小、中学校全国大会に出場するぐらいの実力だが優勝までは行かずじまいだった。
中2の最後に剣道からは引退しその後は留学のためにすべてを勉強に費やしたのだ。

「おいおい、日本人だから日本刀ぐらい持ってるだろ」

弾を込め終わったトムが呆れ気に呟く。

「日本人だからって持ってると思うなよ。確かに持ってたけど空港の警備上持ってくることは出来なかったし向こうの実家においてきた。そもそもこの木刀も持ってくるのギリギリだったんだぞ」
「まあ、どうでもいいけど本気でそれ持って行くのか?」
「ああ、剣道には自信あるし。銃とか野蛮なもの使いたくないし」
「・・・俺としてはその棒を使って戦うやつのほうが野蛮だと思うがな・・・」

2人はなんだかんだ話し合いながら1階に降りると玄関のドアを開け外へと出る。
空を見上げると空はより一層曇り今にも雨が降り出しそうだった。

「・・・バイクで行けば1時間も掛からないよな」
「うん。でも、急がないと」

空を眺めながらリョウは言うとトムは無言で頷き竹刀袋に入れた木刀を背よったリョウがバイクに跨りトムも習ってバイクに乗り込むとエンジンが掛かったバイクはそのままリョウの家を後にした。

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