biohazard -Power to flower-

Third Day
〜Hacker〜

幸か不幸か、次の日の天気は大荒れだった。
学校は臨時休校となり、気持ちを落ち着けるにはちょうどよかった。
体が震えている気がした。怖いのだろうか?
(当たり前だ・・・怖い。)
今まで、両親との関係以外なんの問題もなかった人生だった。
危ないことは何もしなかった。ずっと優等生を演じていた。
両親に見てほしかった。だから優秀でいた。
運動は結局できなかったけど、他ではトップに立っていた。
しかし・・・それは本当の自分ではなかった。
誰かに、いや両親に褒められたくてそんな自分を作っていた。
いつのまにか性格にもでていたのか、周りからおとなしくおしとやかだと言われていた。
それがいいことなのだろうと思い、それを続けていた。自分を隠したまま。
アメリカに渡って、少し変わった。いや、素が出てきたというのだろう。
エリー達に出会って、本当の自分をだせそうになった。
でも・・・本当の自分を初めてさらけだしたのは、彼だった。
本当は一杯無茶をしたくて、悪ふざけをしたかった。
でもそれはきっと嫌われると思い、しなかった。
誰もがそうやって偽っている面を持っている。
彼は違った。彼は自分を隠そうとはしなかった。
少なくとも私にはそう見えた。だから本当の私を見ても、今までどおりいてくれると思った。
彼のために、本当の自分をさらけ出そう。
誰に憎まれても、誰に疎まれても、誰に嫌われても構わない。
ただ、彼とまた一緒にいられるのなら・・・。

陽が完全に落ちたとき。カナは動き出した。
荷物をまとめたバッグを背負い、腰に銃を提げる。
「いま行くから・・・。」
カナは向かった。キングバーナードホスピタルへ。
ファイブセブンが待つ場所へ。

傘を差し、ゆったりと歩道を歩いていく。
不意にそのとき、隣に並んで歩く人影が現れた。
顔を見なくても誰かわかった。
「こんばんは、ミリアちゃん。」
「遅いお出かけだね。昨日のうちに来ると思ってた。」
「女の子の買い物は長いんだよ?」
「・・・そうだね。」
ミリアはそこで立ち止まる。カナは気にせず前に進む。
「カナがくること、警備隊にもう伝えた。決して殺さないようにって命令した。」
「・・・そっか、助かるよ。」
余裕のあるカナに、ミリアは苛立ってきた。
たった数日に何があったのだ。目の前の少女は本当にカナなのか、と。
「自分の無力さを知って、もう二度とこんなことするんじゃない!」
ミリアの怒声が、大雨の街中に響いたが、それもすぐ消えた。
カナは立ち止まって振り返ると、微笑を浮かべて呟いた。
「そうだね・・・私が負けたら、ね。」
「勝てるわけ、ないだろ・・・。」
カナはそれには答えず、歩き出した。

「ご苦労さん、交代に来たぞ。」
警備服の男がそう告げると、これまで外にいた警備員がくたびれた様に手を上げた。
「お〜、助かる。お前も無理するなよ。昨日からみんなくたびれてるからな。」
「急にですからね、あの女。ちょっと立場が上だからって命令しちゃって。」
「でも、中々可愛いし強気でいい感じじゃね?」
その男の言葉に、交代の警備員は固まった。
「・・・お前そっち系?」
「そっち系とか言うなよ・・・。」
そのとき、院内から医師が一人飛び出してきた。
「どうかしたんですか?」
「人手が足りない、手伝ってくれ!特に機械に詳しいやつ!」
警備員は顔を見合わせ、中に急いだ。

「くそっ、くそっ、なぜだ!パスワードがリアルタイムで書き換えられている!」
「デ、データがどこかに転送され続けてます!送り先・・・ピザ屋!?」
「機器が正常に作動しない!至急患者を運び出すんだ!」
院内は騒然としていた。
あらゆる電子機器が異常を訴え、制御が利かない状態になったのだ。
「おい、どういうことだいこりゃ。」
警備員の男がその光景に唖然としている。
「なにボサッとしている!下の連中にも応援を呼んできてくれ!」
「し、しかし俺らは警備を任されて・・・。」
「下手すると下のデータも持ってかれるんだぞ!?」
「わ、わかった!」
そのとき、追い討ちをかけるようにスプリンクラーが稼動。
「く、くそ!コンピューターを濡らすな!」
騒ぎは院内全体から聞こえる。
どうやら、同じような現象が全体で起きているようだ。
「おい、火災警報が鳴り出したぞ!誰か止めろ!火事なんか起きてない!」
「と、止まらない・・・止まんねぇよ!?どうして!?」
「いいからお前は応援読んで来い!テンドウ副主任がいるはずだ!」
警備員は混乱しながらも、地下への入り口に急ぐ。
壁に添えつけられたパスコード入力装置にパスを入れ、入り口を開いて地下へ降りていく。
少しすると、応援の研究員と警備員が扉から駆け足で飛び出してきた。
それと同時に、白衣の研究員らしき人物が入れ替わりに地下に降りていく。
「おい、応援はもう呼んだぞ?」
「下のコンピュータがウィルスにやられるのを防ぎます!」
「そうか、頼んだぞ!」
それから、10分後。
突然に警報、スプリンクラー、コンピュータの異常作動が停止した。
水びたしの廊下に、呆然としている関係者が立ちすくんだ。
「・・・止まった。」
「誰か・・・治したのか?」
っと、玄関の自動ドアが開き宅配の男が中に入ってきた。
「うわっ、どうしたんですかコレ?」
「あんた・・・なんだ?」
「はい?注文を受けて届けに来たラッキー・ピッツァの者です。ミックスピザ10枚お届けにあがりました。」

その少し前。
廊下を白衣の女性が全速力で駆けていく。
目的地は・・・メインコンピューター。もしくはそれにアクセスできるパソコンだ。
(上の騒ぎはあと10分で収まる・・・それまでにアクセスしなきゃ!)
それは、上の騒動の中ロッカーで拝借した服を着たカナだった。
上の騒ぎのおかげで地下も騒がしい。
自分とすれ違う警備員たちも、気にしてないようだ。
(警備員の人たちからすれば、ただの少女が1人侵入するより、上の騒動のが重要だからね。)
カナはコンピュータールームに到着すると、堂々と入り端の人があまりいないコンピューターに座った。
(う〜、度が入っていないとはいえ眼鏡は慣れないなぁ。)
リュックの中身を入れ替えたアタッシュケースを開き、中から自分のノートパソコンを取り出した。
目の前のパソコンと自分のを起動し、配線を接続していく。
(はい、送信。)
その突如、コンピュータールームがざわめいた。
「おい、こっちのパソコンもエラーを出し続けているぞ!」
「上のウィルスがこっちにまで・・・!?急いで復旧しろ!」
(部屋の人は5人か・・・7台くらい生き残らせておけばいいかな。)
「こっちのヤツはまだ正常だ、すぐに排除にかかる!」
「こっちもだ!まだ感染してないヤツを使って駆除しろ駆除!」
カナはその間に、メインコンピューターにクラックを始めた。
(重要な所だけに壁が厚い・・・何重ものセキリティか。でも、ここまで近づけば楽勝!)
カナは時計を確認した。上が収まるまであと2分だ。
(1分・・・いや、1分もいらない。)
自分のコンピューターから解析用のファイルを送る。
自動解析と、手動で同時にアクセスコードの奪取を試みる。
(待っててファイブさん・・・きっと助けてあげるから!)
キーを打つカナは、さらに加速をする。
何重ものファイアーウォールを容易く突破。アクセスコードの入手に成功。
すぐにメインコンピュータに接続し、ファイブセブンの居場所を検索。
ダウンロードした画面上のマップがめまぐるしく動き、ある一つの部屋を点滅させながら止まった。
(第一隔離室・・・ここだ。)
あとは、そこまでどうやって行くか。
騒ぎが収まったら手薄になった地下に人が戻ってくる。
そうしたら、自分では手に負えない。
(・・・そうだ。)

「ったく、なんだったんだ・・・。」
「コンピューターの誤作動って話じゃないだろうが・・・何処の誰が。」
地下の警備員や研究員が騒ぎが収まるのを確認すると、地下に戻ろうと出入り口に向かう。
カードを通し、パスワードを入力。
しかし軽快な電子音と共に開くはずの扉が、エラーを出した。
「おいおい、パス間違えるなよ。」
「ははっ、悪い悪い。」
先頭の男がもう一度入力。 しかし、再びエラーが出された。
不審に思った研究員が、自分のカードを通してパスワードを入力。
扉は、開かない。
「カードのせいじゃない・・・パスが書き換えられている!?」

「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・!」
呼吸を乱しながら、カナは走る。
目的地までの道のりはわかったが、少々距離がある。
それに・・・まだ地下には残った警備員がいるのだ。
「待て、そこの女!」
(見つかった!)
カナは後ろから追いかけてくる警備員に向けて引き金を引き、陰に隠れた。
(当たるとは思わない・・・けど、威嚇くらいには!)
彼女が隠れたのは、防火用と思われるシャッターの脇。
目の前の端末にノートパソコンとケーブルを繋げ、キーを叩く。
すると、分厚いシャッターがゆっくりと降り出した。
警備員数名が向かおうとするが、発砲して威嚇すると引き下がった。
カナはもう大丈夫だと悟ると、再び走り出す。
すると、厳重に電子ロックされた扉が彼女を遮る。
彼女はコード入力の端末の下に座ると、ケーブルを繋ぐ。
自動でパスコードの解析を開始した瞬間。
発砲音が響いた。
「きゃっ!」
カナは即座にその場を離れ、物陰に隠れる。
飛んできたのは鉛弾ではなく、非殺傷用のゴム弾だ。
しかし、当たれば終わりだ。殺さないというだけで威力は十分ある。
「どうしよう・・・パスコードを入力している間に撃たれちゃう・・・。」
扉も、すぐに開くとは思えない。
パソコンの画面を見る。解析が完了したらしい。
カナが物陰から僅かに出て発砲。
弾は逸れ、遠くの十字路にいる警備員数名が反撃してくる。
カナは再び物陰に隠れた。
発砲された内の一発が、パソコンを掠めた。
(アレに当たっても、まずい!)
無闇に発砲されても困る。しかし、長引けば不利だ。
「お願い、もう少しだから・・・私に力を貸して、ファイブさん!」
そのとき。
発砲音と同時に警備員たちがその場に崩れ落ちていった。
カナは呆気に取られ、状況を飲み込めなかった。
なぜなら、自分はまだ一発も発砲していない。
「だ、誰・・・?」
しかし、なんだろうとこのチャンスを逃すつもりは無かった。
解析されたパスコードを入力。何重にも重ねられた分厚い扉が開いていく。
カナはそこを抜けると扉は自動で閉じ、彼女の退路を断っていく。
「もう・・・戻れないんだ。」
彼女は小さくつぶやき、そして走り出す。
ここまでくれば目的地まであと少しだ。
最後の曲がり角を曲がり、後は直進するだけ。
廊下の先に、第一隔離室のプレートが目に入った。
「見つけた!」
そのとき。
隔離室の扉が開き、見覚えのある白衣の女性が現れる。
カナは立ち止まる。一瞬その顔が恐怖に歪んだ。
「・・・お母さん。」
「お遊びはここまでよ。カナ。」
カナの母、カズエは銃口を彼女に向ける。
マガジンに装填されているのは、明らかにゴム弾ではない。
なぜなら、彼女の持つサイズの銃。ハンドガン用のゴム弾はない。
それはつまり、これ以上何かすれば撃つということだ。
カナの背筋が凍りつく。
しかし、躊躇していられない。長引けば長引くほど不利だ。
カナもカズエに銃口を向けた。
「そこをどいて。お母さんに用はありません。」
「あなた、いつから母親に向かってそんな事言うようになったのかしら。」
お互い一歩も引かない。相手が本気だと知っているから。
「あんなガキ一人に、何をこだわっているのかしら。」
「・・・お母さんには関係ない。」
「関係あるわ。娘が変な男にたぶらかされてるんだから。」
「違う!私が好きでやっていることだよ!」
「違わないわ。あの男とあわなければこんな事しないでしょう?」
「・・・っ!」
それは、事実だった。
彼がいなければ、こんな事は決してしないだろう。
ハッカーである自分は、表舞台には立とうとしない臆病者だから。
自分の身が、一番大切だから。だったから。
「だけど・・・。」
「ほらごらんなさい。そうでしょう?あなたの人生があいつのせいで台無しになるのよ。」
そうだ。彼がいなければ今の自分は無い。
「だけど・・・!」
「さぁ、銃を捨てなさい。今なら特別にお仕置きは無しにしてあげるわ。」
カナは実の母を見た。
その手にあったハンドガンが、今更になって何かがわかった。
こういう類に疎い自分でも、それだけは覚えている。
Five-seveN・・・彼の愛銃だ。
カズエが、一歩前に踏み出した。
「だけど!」
カナは銃を捨て、カズエに向かって走り出す。
銃を捨てたことで油断したカズエは、その行動に反応が遅れる。
「もっと大切なものを私にくれたんだ!」
パソコンの入ったバッグを振り回し、カズエの頭部を強打した。
「あっぐぅ!」
カズエは銃を落とし、壁に手をかけて崩れ落ちる。
「彼がいなかったら、私の人生なんてちっぽけなものだった!これからが私の本当のスタートなんだ!」
彼女は母にそういい残し、Five-seveNを拾って彼のいる場所へ向かう。
自分を変えてくれた、大切な人の下へ。
半開きだった扉を開け、中に入ると鍵を閉めた。
部屋の中を見渡す。自分の息が荒いのがよく聞こえる。
彼女は興奮状態に陥っていた。
危険な場所に潜入し、母親を殴りつけ、さらに目的が達成されようとしているのだ。
部屋の中央、大きなベッドがあった。そこに・・・黒髪の青年が寝ていた。
会いたかった。もう一度だけでも、彼の姿を見たかった。
涙が零れ落ちる。息をしている。生きている。
それだけで彼女は幸せだった。
カナはゆっくり彼の下に向かうと彼の腕を抱きしめる。
「良かった・・・生きてた!また、会えた・・・!」
カナは零れる涙を拭うと、彼を起こそうとする。
「ファイブさん、起きて。起きてください!」
肩を揺すってみるが、反応が無い。
あれだけの傷を負ったのだ。まだ意識が戻っていないのかもしれない。
(だとしたら・・・私じゃ担いで脱出はできない!)
考えていなかった。彼の意識が戻っていないなんて。
冷静に考えるとわかってたことだ。ミリアも言っていたではないか。
・・・頭に血が上っていたのだろう。もう手遅れだ。
「お願い、起きて!一緒に逃げよう!?」
ファイブセブンは、起きない。
カナはその場に崩れ落ちる。
「お願い・・・私と、一緒に・・・。」
そのとき、扉が破られて警備員が二人押し寄せてきた。
彼女は涙で崩れた顔で、警備員を見据える。

─やっぱり・・・私じゃダメだったんだね─

カナは最後の足掻きだと、Five-seveNの銃口を向ける。
銃声が二発、室内に響き渡った。

「くそっ、何をしていたんだ貴様ら!?」
ミリアは無線を片手に、地下研究所を全力で駆けていた。
『す、すいません!偶然地上のコンピューターがハッキングを受け、混乱していたもので・・・。』
「言い訳はいい!とっとと非殺傷用の武器を持って確保に当たれ!」
『イ、イエッサー!』
ミリアは無線機をしまい、第一隔離室に向かった。
そこまで到達できたとは思えないが、最終的にくるのはあそこだ。
だが・・・さきほどからカナの姿が見えない。
まだ捕まっていないなら、どこかに隠れているか・・・。
(くそっ、どこのどいつだか知らないが何てタイミングでハッキングを!)
それさえなければ、今頃カナは捕まるか諦めていたことだろう。
もしかしたら運よく到達してしまったかもしれない。
あとは、帰りを取り押さえるしかない。
っと、そのとき。彼女はある考えに思い至ってしまった。
「こんな・・・完璧なタイミングでハッキング・・・。」
これまでのカナのことを考える。
「学校では成績優秀、頭はいい・・・自宅にかなり性能のいいパソコンもある。」
それは、常識的に考えればありえないことだ。
しかし絶対にありえないとは言えない。
「まさか、あの子の仕業だっていうの!?」
誤算だった。
今の時代、ハッカーは脅威だ。
電子機器によってセキリティは固められ、あらゆる情報を蓄積している。
それこそプロ顔負けの腕だったらの話だが、瞬時にパスコードを解読、書き換えだってできる。
それだけで、被害者はハッカーの手の中で踊ることしか出来なくなる。
「・・・だけど、まだ終わったわけじゃない!」
ミリアは再び走り出す。第一隔離室まであと少し。
最後の角を曲がると、廊下に倒れるカズエが目に入った。
「誰にやられた!」
カズエが心配で言ったわけではない。
いまこの状況を作れるのが、一人しかいないから。否定してほしかった。
「わかってるでしょ・・・カナよ。追いな・・・さい。」
側頭部から出血しているが、命にかかわるものでもなさそうだ。
恐らく衝撃で頭が朦朧としているほうが大きいのだろう。
っと、そのとき。銃声が二発。
目の前の隔離室から。
「・・・カナ!」
ミリアは駆け出し、室内へと飛び込んだ。
刹那、銃声が一発。瞬時に飛びのいて部屋の外に出る。間一髪避けれたようだ。
「カ、カナ・・・?」
ミリアはゆっくり、壁から顔だけだして中の様子を伺う。

「残念、大ハズレだ。」

ミリアの目に映ったのは倒れた警備員二人と、唖然とする天童=花菜。
そして・・・ハンドガンを構えた男。
ファイブセブンがいた。
「ファ、ファイブ・・・さん。」
カナは突然の出来事に、頭が付いていかなかった。
銃を向けた瞬間、警備員が引き金を引くよりも速く。
シーツが盛り上がり、自分は引き寄せられ銃が手から抜き取られていた。
そして発砲。いま、彼女は・・・彼の腕の中にいた。
「よう、良いお目覚めだぜ。」
「貴様、カナから離れろ!」
ミリアが扉から躍り出て彼に銃口を向ける。
勝機はあった。なにせ、あの重体なのだ。まともに動けるはずが無い。
しかし・・・読みは大きく外れた。
ミリアの手の中のM92Fが弾き飛ばされる。ファイブセブンが撃ち抜いたのだ。
「そんな馬鹿──」
「通してもらうぞ。」
あまりの出来事に、完全に油断していた。
ミリアは銃のグリップで頭部を強打され、意識が途切れる。
「──な・・・。」
彼女はその場に崩れ落ちていった。

「カナ、状況は?」
カナはファイブセブンに手を引かれながら、廊下を走り抜けていた。
「えぁ、はは、はい!えっと・・・!」
「落ち着けよ。俺に任せればこんなとこすぐ抜け出してやるから。」
そう聞き、安心した。
そう、ずっと聞きたかった声。ずっと見たかった姿。彼は何も変わらなかった。
優しくて、強い。
カナは興奮する自分を抑え、頭を整理する。
最初から説明している暇は無い。
「ここはアンブレラの地下研究所、場所はキングバーナードホスピタルの下です。
私たちは一度捕まって、現在脱出中!」
「ご苦労、それだけわかれば十分!」
「それよりファイブさん、怪我は大丈夫なんですか!?」
カナはずっと心配していた事を聞いた。
しかし、ファイブセブンはカナに向けて微笑むだけで、答えない。
「む、無理しないでください!」
「今は全力でやらせろって。帰ったら美味いコーヒーでも煎れてくれよ。」
「もう・・・!」
警備員が三人、彼女たちの行く手を阻んできた。
しかし、あまりにも速いファイブセブンの射撃に一瞬で三人は地に落ちていった。
「私んち、コーヒーないですってば!」

二人が十字路に出た瞬間、ファイブセブンは一瞬で後退しカナの動きを制す。
刹那、激しい銃撃が二人が跨ごうとしていた廊下に浴びせられる。
「待ち伏せか!」
ファイブセブンは発砲して牽制しながら様子を見る。
すぐに反撃にあい顔を引っ込めた。数は多い。
すると、カナがパソコンを取り出してキーボードを軽やかに叩く。
電子音が左右の廊下からすると、ゆっくりと防壁が下がり始めた。
「なっ・・・。」
ファイブセブンは唖然としながらそれを眺めていた。
必死に警備員が降下を抑えようとするが機械と人間の力では比べようが無い。
「さっ、行きましょう。」
「おう・・・。」
二人は完全に閉じた防壁を尻目に直進していく。
もう出口は目と鼻の先。しかし、そこに大掛かりなバリケードと共に多くの警備員が集まっていた。
「くそ・・・しっかり張ってやがるな。」
「し、慎重にね。無理しないで。」
「ん〜・・・ちょっと難しいお願いだな。この状況じゃ。」
ファイブセブンはマガジンを抜いて残弾を確認し、溜め息を付いた。
「一人一発で仕留めても足りない・・・。」
「どうしよう・・・。」
そのとき突然、出口のほうから爆発音が響いてきた。
何事かと二人は顔を覗かせて出口のほうを見る。
バリケードは崩れ、警備員の大半が倒れていた。
グレネードの欠片が落ちている。爆発音もしたし、間違いないだろう。
「自爆・・・はありえないよな。誰が?」
「それより、チャンスじゃないですか?」
カナがいうと、ファイブセブンは頷いて走り出す。
まだ動ける警備員数名を戦闘不能にすると同時に、弾が切れた。
しかしまともに動ける相手はもういない。
「一気に走り抜けるぞ!」
「うん!」
バリケードを乗り越え、地上へと続く階段を駆け上がる。
っと、ファイブセブンは床に落ちている不自然なものを拾い上げた。
「何かあったの?」
「・・・マガジンだ、俺の。それにフックショットも。」
マガジンだけならまだしも、彼の愛用するフックショットもあるのは不自然すぎる。
明らかに誰かが、意図的にここに置いていったのだ。
ファイブセブンは今は深く考えないようにしてフックショット入りのホルスターを腰に装着し、マガジンをFive-seveNに装填した。
「誰だか知らんが、助かった。」
開けっ放しの出入り口を潜り抜け、二人は地上へと飛び出した。
院内は先ほどの騒ぎの余韻が残っており、廊下は水浸し。
職員も復旧に手一杯で、彼らを気にする者はほとんどいなかった。
だが、堂々と玄関から出るつもりは無い。
ファイブセブンは手近の窓を開ける。
激しい風雨が二人を叩きつけてきた。
「行くぞ!」
「はい!」
二人は窓から飛び出し、植木をすり抜けて駐車場へと向かう。
後方から射撃音が響いてきた。ファイブセブンはカナに先を走らせ、
自分たちが出てきた窓にむけて発砲。
僅かに血飛沫が舞い、呻き声が聞こえた。彼はすぐにカナを追いかけると、一台のバイクの前で彼女は立ち止まっていた。
「どうした?」
「このバイク・・・鍵がつけっ放しです。」
そういわれて目の前のバイクを見る。
確かに鍵がさしっ放しだ。偶然だろうが非常についてる。
ただどこかで見た覚えがあるバイクだ。自分のではないのだが・・・。
深く考えないことにした。
「よし、奪うぞ。」
「返す気なくてもせめて”借りる”っていいましょうよ!」
ファイブセブンはシートにまたがり、エンジンをかけた。
「よし、乗れ!カナ!」
カナが彼の後ろに乗ると、すぐさまアクセルを回し動き出す。
追っ手が後ろのほうに見えるが、それもすぐに見えなくなっていった。
「なるべく遠くのアジトに向かったほうがいいな・・・!」
「それより早く怪我の治療したほうがいいよ!」
「かまうなって、ぐっすり寝てたら治ったよ!」
「嘘ばっかり!」
ファイブセブンは大通りにでると、道なりに猛スピードで直進する。
車の数自体あまり多くない。この天候では、でかけようとする人が少ないようだ。
「・・・追ってこないね。」
「簡単には追いつけないだろ。条件は一緒なんだからな。ただ・・・。」
そこでファイブセブンの声が途切れる。
カナが首を少しかしげた時、上空から風を叩くような音が聞こえてきた。
彼女は夜空を見上げた。
「・・・ヘリコプター!?」
「よくこんな悪天候で飛ばすよ!」
ヘリが低空飛行を始めると、彼らめがけて銃撃を始めてきた。
「きゃぁぁぁ!」
「舌噛むなよ!しっかりつかまれ!」
ファイブセブンはさらにアクセルを回す。
バイクは加速し、銃弾を縫うように走り始める。
(路地にはいらないと狙い撃ちか・・・くそ!)
相手の銃撃が一瞬止んだ刹那、急減速すると目の前の路地裏に滑り込んだ。
ヘリは上昇し、彼らの真上から追跡を始めるが、建物と天候で視界が悪く狙いが定まらないようだ。
「このまま逃げ切れる?」
「いや、無理だ。相手は目が良くてこっちより速い・・・完全に視界から消えるか、墜とさないと。」
ファイブセブンが再び大通りに出る。するとヘリからの銃撃も再開された。
バイクは向かってきた対向車を避ける。刹那、その対向車が蜂の巣にされて炎上した。
「見境なしかよ!」
「ファイブさん、前、前!」
一瞬後ろを見ていた彼が前に振り返る。
そこに、大型のトラクターが迫ってきていた。
「くっそ!」
相手もハンドルを切ったらしく、互いに反対方向に避ける。
しかし、運悪くマンホールの上でハンドルを切ってしまい、バイクのバランスが大きく崩れてしまった。

「──あっ。」

カナは声を発することも叶わず、横転するバイクから放り出される。
しかし、間一髪。
ファイブセブンが彼女の腕を掴み、自らを盾にして目の前の服屋のショーケースに突っ込んだ。
「きゃぁぁぁ!」
遅れてカナの叫び声が辺りに響く。
それほど一瞬の出来事だったのだ。あの状態で咄嗟に反応できたファイブセブンは、やはり常人とは違う反射神経を持っていた。
「あ〜・・・痛てぇ。」
割れたガラスの上にファイブセブンは倒れていた。
カナは彼を下敷きにしており、ほぼ無傷だ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ちげぇ、耳がだよ・・・。」
ファイブセブンは何事も無かったかのように起き上がり、カナを立ち上がらせる。
「あんまり叫ぶなよ。身の安全は俺が保障してやるから。」
「ご、ごめんなさい。」
どこか、ファイブセブンは機嫌が悪いようだ。
それが自分にあるんじゃないかと、カナは怖気づいてしまう。
その心中を察した彼は、カナの頭を撫で始めた。
「気にするなよ。お前のせいじゃない。」
「ほ、本当・・・?」
「あぁ。あの浮いてる屑鉄・・・俺の愛車を傷つけやがって。」
「も、もう自分の物扱いですか・・・。」
割れたガラスの先に、横転した挙句壁に激突し、フレームが歪んだバイクが倒れていた。
っと、そのとき。
銃撃音と共に、バイクに被弾。ガソリンに引火したらしく爆発を起こす。
離れていた二人に被害は無い。
しかし、ファイブセブンの表情が凍り付いてしまった。
「あ、あの・・・ファイブさん?」
彼の瞳には、炎上するバイク。それしか写っていなかった。
「あの・・・野郎・・・。」
彼の拳が怒りに震えていた。
カナは顔をこわばらせ、彼から一歩離れた。
「なんてもったないことを!」
「そういう状況・・・?」
っと、そのとき。
一台の古臭いバンが店の前で急停止し、同時に白煙を引きながら何かが射出された。
刹那、爆発音がして数秒後。ヘリの残骸と思われる塊が空中から降って道路に散らばった。
「・・・落ちたね。」
「あぁ・・・。」
二人は目の前のバンから人が出てくるまで、唖然とするしか出来なかった。
「やぁやぁ、御機嫌ようファイブセブン。」
バンからRPG−7片手に姿を現したのは白髪の男。
ファイブセブンはその男を見ると、顔をしかめた。
「・・・ちっ、あんたにだけは助けられたくなかったよ。」
「そう言わずに。デリンジャーは貴方のことが心配で夜も眠れないほ──」
「誰がそんなこと言ったぁ!?」
運転席から小柄な少女が突如怒鳴りながら顔を出す。
カナはその少女と目が合った。見覚えがある。
「あ、この前はどうも・・・。」
「あら、あの時の娘じゃない。」

第四研究所─別名”特異遺伝子研究所”と呼ばれるそこは普段とは違い慌しくなっていた。
たった一人の少女に潜入され、さらには逃がしてしまったからだ。
所員も十数名が負傷。内六人が死亡。
幸いだったのは、持ち去られたのは監禁していた青年だけということだ。
システムも完全に復旧し、データが外部に漏れた形跡も無い。
だが・・・これはアンブレラ社にとって見逃すことが出来ない問題だろう。
「追跡中のヘリは撃墜されました。墜落現場に向かったときには既に消防隊と警察が張っておりまして・・・。」
「調査・・・できなかったのか。もういい下がれ。」
ミリアは片手で氷のうを頭に当てている。
男は申し訳なさそうに頷き、部屋を出て行った。
「不甲斐ない。たった二人・・・いや、”一人”にここまで振り回されたのか。」
間違いなく、一人の少女によって巻き起こされた事件だ。
警備員の負傷は恐らく無関係だが、それでも。
(カナ、貴方は何者なの!?)
氷のうを握る腕に力がこもる。
自分は騙されていた?彼女は一般人ではなかった?
アンブレラに敵対する組織の一員・・・。

(違う!)

腕にさらに力がこもったとき、氷のうが派手に破裂して飛び切りの冷水を頭から浴びる。
「わひゃ!つつ、冷た・・・。」
塗れた髪を振るったとき、頭にタオルが落とされた。
「無様じゃないか、ジョーカー。」
そこには、長髪の女性─フォックスがいつのまにか佇んでいた。
「・・・何のようだ。」
「仕事を終えてね。帰る前に一声かけようと。」
そういいながら、彼女のデスクの上に三枚のカードが落とされる。
ミリアはそれを拾い、顔をしかめた。
血で塗れた、USS隊員の識別カードだ。
「悪く思わないでくれ。近づいて何者か聞いたら撃たれたので殺した。」
それは、彼女の尾行に付かせた隊員たちのものに間違いなかった・・・。
「・・・はいそうですか、って言うと思ったか?」
ミリアがヒップホルスターからハンドガンを抜き取る。
だが、今回はフォックスは何も行動を起こさずに去っていく。
「思うよ。あんた、会社のために働いてますってタマじゃないもの。」
それだけ言い残し、入ってきたドアを閉める。
たしかに撃つ気はなかった。だが・・・。
「そんなにわかりやすいかな、私・・・。」

夜の街の、さらに暗い路地裏の小さなテナント。
そこに案内されたカナは、先に入ったパイソンの手招きに誘われるようにその部屋に足を踏み入れた。
「ようこそ、仕事請負屋”グレイハウンド”へ。」
明かりが灯され、そう広いわけではない一室が明らかになった。
ソファーが三つ、大き目のデスクが二つ。
アクセントなのだろうか、似合っていない観葉植物がポツンと置かれている。
質素な部屋だ。奥に通じるであろうドアがある意外他に何もない。
「別に客じゃねーんだ。奥あがらせてもらうぞ。」
ファイブセブンはカナの後ろから入り、彼女の肩を掴んでずかずかと前進していく。
しかしそれをデリンジャーが回り込んで遮った。
「話はここで。わたくしたちも聞く権利があると思うわ。」
「青臭い青春話もまた、酒のつまみによさそうですね。」
「・・・あのなぁ。これは俺とこいつの問題で──。」
ファイブセブンの言葉を遮りながら、カナが二人の前に出た。
「わかりました、お話します。」
「なっ──。」
「君は素直でいい娘ですね。」
パイソンも満足そうに、酒を持ち出して微笑する。

それから、彼らはソファーに腰掛けこれまで起きたことを全て話した。
重症だったファイブセブンのことも、救助に向かったカナのことも。
もちろん、アンブレラの研究のこともだ。
一通り話が済んだころ、始めに淹れたコーヒーはとっくに冷めていた。
「なるほど。中々浅い話ではなさそうですね。」
「まぁ、確かにこっちの世界じゃアンブレラの妙な噂は後を絶たなかったわね。
真剣に探せばごろごろでてきそうなもんだわ。」
「だけどそれは確証できない。そのために彼らは潜入してまで情報がほしかった。」
「だが失敗。潜入班は全滅。実験体が暴れ周り研究所は壊滅。」
ファイブセブンは自分で包帯を取り替えながら溜め息を付いた。
「や、やっぱり私やりましょうか?」
「いいよ、あんま見ないでくれ。話続けて。」
カナは頷く。そして・・・彼女が話したかった本題に移る。
「私は最初に言ったとおり、研究の尻尾を掴んでどこかへ流すつもりだった。
でも地下の端末をいじくってわかったけどあれは外部とは完璧に繋がりを持たないネットワークを形成されていたみたい。外からではクラックは不可能。」
「それで、今回侵入したときに情報の奪取は?」
「していません・・・今回の目的はファイブさんの救出でしたから。」
「ダメよう、こんなのほっておいても死なないんだから。」
「・・・うるせぇ。」
デリンジャーはニヤニヤしながらファイブセブンを見る。
対する彼は包帯を彼女に投げつける。どうやら交換は終わったらしい。
「でも。」
っと、カナが話を続ける。
「この街には、合計で五つの研究所があることがわかったんです。
前回潰れた精肉工場地下の他に、四つ。」
「病院のやつと、アンブレラセントブリーズ本社。他にも二つ?」
デリンジャーの問いにカナは頷く。
「薬品工場地下と、廃工場の地下。本社を囲むように・・・。」
「それを僕らに教えて、君はどうしたいんだい?」
カナの動きが止まる。
考えていないわけではない。彼らに手伝ってほしいと。
しかしそれはただの甘えだった。
これは、自分ひとりの問題なのだ。無関係な人を巻き込むことではない。
パイソンの一言に、自分の愚かさを噛み締める。
「いえ、ただ私以外にこの情報がほしい人がいたら・・・教えてください。」
「それだけかい?」
「・・・はい。」
カナは塗れた服のまま立ち上がり、入り口へ向かう。
「お、おい。カナ・・・。」
「ごめん、もう帰るね。また明日から、忙しいから・・・。」
そうだ、明日もまた、アンブレラとの戦いは続くはずだ。
今度からは、自分も追われる身になった。
(なるべく人目につく行動は控えないと、あとお金と食料の確保・・・も・・・。)
視界が大きく歪んだ。
カナは倒れそうになるが、手を壁について体を支える。
遠くのほうで自分の名前が呼ばれた気がした。
だがそれもすぐに聞こえなくなる。視界が暗くなった。
意識がそこで途切れる。

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-intermission-#3

その研究所の中は予想通り、寂れて汚れていた。
辺りは血か土汚れかわからない何かで汚れ、戦闘の形跡も生々と残している。
グロックは落ちていた空薬莢を拾い上げる。
かなり古いもののようだ1〜2年以上は経っている。
依頼者の物ではないようだ。つまり、前々にもここは襲われ、そして抵抗し・・・壊滅した。
「あの化け物がやったってことかな?」
「あんなのがこの地球上のどこにいるってんだ・・・新種すぎる。」
「でも実際目の前にいたよ?」
アレスは窓の外を指差しながら言う。
確かにそれは否定できないことだ。しかし。
「不自然なのは、その化け物の死体がこれまでひとつもないってことだ。
あるとしても最近殺された新しいものだけ。」
「一匹も殺せずに全滅したってことは?」
「これだけの量撃って一匹も、か・・・ありえない気もするけどなぁ。」 そのとき、グロックはもう一つの不自然なところに気が付いた。
ここに、人間の死体が一つもないことだ。
だがそれは容易に想像できた。化け物が喰らい尽くしたのだろう。
しかし、それでは彼の”予想”とはやはり違える。
時間の経った死体が食料になりえるとは思えないからだ。
(一匹も殺せなかったのは考えにくい。確かに凶悪だが不死身ではない。
それに広いとはいえこんな廊下で撃てば必ず何発かは当てられるはずだ。)
探索しながら、二人は依頼者がいた階へと進んでいく。
グロックは気がかりが振り払えず、手がかりを探して周りを見渡した。
(そもそもここは何の施設だ?何故こんな奥深くにひっそりと作る?
危険な研究か何か・・・もしくはその実験場?)
危険なモノほど、裏での相場は高い。
その分敵も多くなるということだ。こんな所に作る限り、その危険度は想像できないほどであろう。
ならば。
「ここの襲撃者と、あの化け物は無関係かもしれない。」
「50点といったところだな。」
そのとき、突然掛けられた言葉に二人は背後を振り返る。
そこには黒い戦闘服を身に纏ったガスマスクの男が佇んでいた。
「あんたが依頼者か?」
「正解だ。どうやらようやく使える人間が来たようだな。」
男はそういうと、マスクを外し顔をさらけ出した。
金髪の中年男。目を見てグロックは彼の力量を理解した。
自分たちなんかよりも酷い地獄を駆け巡る歴戦の戦士だ。彼は強い。それだけを物語っていた。
「さて、聞きたいこともあるだろうが進みながら話してやる。ついて来い。」
背を向ける男に、グロックとアレスは顔を見合わせてからついていく。
謎が多いが、早いところ引き上げたいのが正直な感想だ。
ここは、まさに地獄だったから・・・。
少し進むと、男は口を開いた。
「さっきのお前の予想。少し違うところがある。」
グロックは先ほどの言葉を思い出す。男は50点だといっていた。
「そういえばそんなような言い方でしたね。ここでは何が?」
「ここはある企業の研究所でな。とんでもなくやばい代物を開発してたんだ。」
「とんでもない、もの?」
アレスが首を傾げた。男は彼を見ながら答える。
「生物兵器だ。」
『ッ!!』
二人の動きが止まった。
ならば、さきほどまでの化け物は・・・。
「あの化け物がそうなのか!?」
「・・・違うな。あれはただの副産物だ。」
「あ、あれで副産物?」
グロックたちは男に追いつくために駆け足で彼に追いつく。
「生き物を化け物に変えるウィルスが研究されていてな。ヤツらはそれに感染し、数年の月日を得て変異していった副産物だ。完成品はあんなに下品じゃない。」
っと、男は振り返って彼らに言う。
「化け物ということに差はないが、な。」
再び三人は歩き出す。
男は更に話を続けた。
「ここで事故が発生してそのウィルスが流出。研究員たちは感染し、研究中の化け物まで脱走。
・・・その後は見てのとおり壊滅してしまった、というわけだ。」
「待ってください。ということはまさかあの化け物は!」
「察しがいいな。あの首が長い化け物は元人間だよ。」
グロックもアレスも息を呑む。衝撃的な事実に。
っと、そのとき。アレスは左肩が痛み咄嗟に傷を抑える。
それを見た男は、溜め息を付いた。
「・・・おめでとう、あんたはほぼ感染したと思っていい。」
「そんな・・・!」
アレスが悲痛の叫びを上げた。
「ウィルスは長時間大気中では生きられず、大体は接触感染によるものだ。
感染率はかなり高くてな・・・傷を受ければ高確率で感染する。」
「抑えることは、できないのか?」
「ワクチンが最近開発されたらしいが、こんな古い施設にあるとは思えないな。」
「・・・発祥まではどのくらいだ?」
「個人差があるが10時間前後。更に体力が落ちたりすると免疫が低下し促進される。」
沈黙が走る。傷を負ってから既に1〜2時間が経過している。
疲労もたまり早まっている可能性も十分あった。
「覚悟を決めておけ。無事作戦が成功すれば花くらい添えてやる。」
「・・・冷たいんですね。」
「そういう世界に生きているんだ。俺も、お前らもな。」
グロックは静かにうなずいた。最もな意見だったからだ。
アレスは悔しくて、雄叫びを上げながら壁を全力で殴りつけた。

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