biohazard -Power to flower-
Second Day
〜Friends〜
暗闇の中、彼の後姿が見えた。
どこか元気が無く、ふらふらとしている。
(助けにきたよ、もう大丈夫だよ。)
彼が振り返るその顔を見て、私の表情が引きつる。
悲痛の叫びをあげながら、私は・・・彼に銃口を向けていた。
彼の眼に生気が無く、身体は血の気が失せていた。
─殺シテクレ─
「あぁあぁぁぁぁぁっっ!」
カナが叫び声をあげながら起き上がった。
その額には冷や汗を掻き、体中が汗で濡れていた。
肩で息をしながら、彼女は辺りを見渡す。
もう大丈夫だ。ここは、あの地獄ではない。
私は現実に戻ってきた。何の変哲も無い日常に。私の日常だ。
だが・・・足りない。日常よりも、大切なものが・・・近くに無い。
思い出し、カナは何度目か分からぬ涙を流した。
大切な人を失うのは、いつでも悲しいものだ。
昔も同じようなことが在った。その時も、彼女は酷く悲しんだ。
自分ではどうしようもないことで、何も出来るはずがなかったのに。
その時彼女は自分を責め、しばらくの間部屋に篭っていたことがある。
自分の殻に閉じこもり、誰も信じなくなった。
しかし月日が経つと記憶とは薄れるものだ。
特にこっちに引っ越してからは、友人を作るようになった。
友人を、作った。
だが、それも・・・裏切られた。
ミリア。彼女は自分を、自分たちを騙していたのだ。
だが彼女はそれを恨んでいなかった。
彼女が恨んでいたのは、気づかなかった自分。そして、助けられなかった自分。
恐らくあの時ミリアが現れなくても結果は同じだ。
重症のファイブセブンを病院に連れて行き、そして拘束。
病院はあそこしかないのだ。他に道がない。
むしろ感謝するべきだったのだろうか。
私は牢獄を出られ、あの傷でファイブセブンもまだ生きている。
処置が早かったおかげなのだろう。
これは当然の結果だったのだろう。もしかしたらあの時、ミリアが現れなければ病院までの道のりが遅れ、彼は死んでいたかもしれない。
・・・何故助けたのだろう。命令だから?
わからなかった。自分には、彼女がわからない。
成績優秀。運動神経抜群。容姿端麗。ゲームも強い。
クールな感じが密かに男女共に人気がある。
友達想いで、とても優しくしてもらったこともある。
自分が知っているのはそれだけだ。彼女の気持ちは、何1つ理解していない。
彼女には彼女なりの考えがあるのかもしれない。
ないのかもしれない・・・だが、話をしたい。
彼女と話して、何か解決できるとは思えない。だが・・・自分には元から現状を打破する力は無いのだ。
だから今は、とても無意味に思えることから始めることにした。
玄関の鍵を閉め、カナが家を出る時は既に午後4時を回っていた。
起きたのが2時半くらいで、遅い昼ご飯とシャワーなどを済ましているとこんな時間だ。
靴を履きなおし、アパートの階段を降りていく。
「あれ〜、カナ?」
階段を降りきるとそう声を掛けられ、声がした方を向いた。
そこには、エリー、ティア・・・そしてミリアがいた。
みんな学校の制服だ。学校帰りなのだろう。
「あ、お・・・おはよう。」
「ちーっす、もう体調はいいの?」
体調・・・何のことだろう。
そういえば学校に何の連絡も入れていない。
今日は火曜日。昨日は地下でモグラになっていたので連絡しようがないはず。
っと、戸惑うカナにミリアが語りかけた。
「風邪引いたから休む、て伝えてくれってカナが私に言ったんだよ。忘れたの?」
なるほど、そういうことか。
ミリアはそれだけいうと、顔を逸らした。とても申し訳なさそうだ。
それがとても心に響き、だがこの場では何の声も掛けられないのが苦しい。
恐らく、エリーとティアは何も知らない。
2人を巻き込みたくは無かった。
だから、この場は誤魔化す。彼女の言葉に口裏を合わせることにした。
「うん、ありがとうミリアちゃん。もう大丈夫だけど・・・念のため明日も休むかも。」
「大丈夫なのに休むの〜?カナは最近サボリが多いぞ〜。」
エリーがカナに近寄り、カナの頬を引っ張る。
「ひゃぁ〜、ひゃめて〜。」
痛くは無い。だけど頭が揺らされて眼が回りそうだ。
エリーは開放すると、カナのバッグを受け取った。
「買い物でしょ?荷物は持つよ。」
「い、いいよ。みんなまだ家に帰ってないんでしょ?」
「今日は甘えていいですよー。」
ティアもカナの隣に並び、笑顔でそう告げた。
いい友達だ。先ほどまでのブルーな気分が一瞬で和らぐ。
カナはミリアを見た。目が合うと、彼女は眼を逸らす。
・・・しばらくまともに話せないかもしれない。
だが、偶然だろうと出会えたのはついてる。解散した後、彼女と2人で話せる。
本当はミリアの自宅に押しかけようと思っていたが、カナは買い物だと偽って4人でショッピングモールへ向かった。
「カナ、カナ!ちょっとこいつ見てよ!」
エリーがそういって掲げるのは、長四角の真っ白な謎の人形だ。
頭に青い帽子をかぶり、手にはナイフを持っている。
「わわ、なにそれ?」
自分の感性からすれば、可愛くもなんともない。
しかしエリーはとても嬉しそうに頬ずりをしている。
ソレを見て、ティアがカナに説明を始める。
「今人気のゲームソフト、”豆腐サバイバー”の主人公ですよ。
粋な心と洒落た言葉遣いで人気なんだぁ、ってエリーが叫んでましたよ。」
「超激レアの人形なんだよ!わぁ、こんなとこで手に入るなんてぇ!」
・・・いや、やっぱりよくわからない。
可愛いのか?人形としてどうなのだろう。
カナはエリーに人形を手渡され、眺めてみた。
っと、よく見るとお腹にボタンが内蔵されているらしい。押してみる。
『もうあかん・・・。』
・・・関西弁だ。こちらの人はそれを承知なのだろうか?
疑問は募るばかり。これ以上持っていたらさらに謎が膨らみそうだ。
彼女はエリーにそれを返した。
すると、エリーはレジに直行していった。買うのか、あれを!
「カナちゃんは何かお人形さん買わないんですか?」
「えっ、う〜ん・・・。」
よくみると、ティアは両腕で兎のぬいぐるみを抱きしめていた。
ミリアをちらりと見ると、口を半開きにしたままテディベアとにらめっこ中。
そういえば、自宅にぬいぐるみの類はない。引越しの際に日本に置いてきた。
不必要だと、捨てられたと言われたといったほうが正しい。当然両親にだ。
今の自宅は素っ気無い。折角の機会に何か買おうか。
「うん、ちょっと見てみるよ。」
「豆腐はいかが?」
ティアが笑顔のまま言うが、カナは苦笑いで返した。
「う、うん・・・そ、それはまた、今度・・・。」
買うことは一生ないだろうが・・・。
カナが店内を見回ると、可愛らしい猫のぬいぐるみを見つけた。
しかし棚の上のほうで、カナの背では脚立を使って背伸びしても届かない。
「どれ?取ってあげるよ。」
下の方で声がした。そちらを見ると、ミリアだった。
彼女は眼をあわそうとせずにそう言う。
彼女には見えていないだろうが、カナは笑顔で応える。
「ありがとう、ミリアちゃん。あの猫が欲しいの。」
カナは脚立から降りて上を指差す。
ミリアはそれを確認すると、脚立に昇って手を伸ばした。
・・・数センチ届かない。
「む、無理しなくてもいいよ?エリーちゃん呼ぼうか?」
彼女たちの中で、一番背が高いのはエリーだ。ミリアでギリギリなら彼女なら届くだろう。しかし。
「ん、いい・・・任して。」
そういうと、ミリアは脚立の上で膝を曲げた。
次の瞬間、不安定な脚立の上で、彼女は跳んだ。
「わっ!」
空中でぬいぐるみをキャッチすると、見事に脚立の上に再び着地する。
ミリアは脚立から降り、カナにそれを渡した。
その時眼が合う。逸らそうとした矢先、カナがミリアに声を掛けた。
「・・・後で話があるから。」
ミリアの動きが止まる。2人が見つめ合った。
カナは猫のぬいぐるみを受け取り、笑顔で告げた。
「ありがとう!じゃぁレジ持っていくね。」
カナはミリアを背にし、返事を聞かずにレジに向かう。
(言った・・・言っちゃった!もう、話すしか・・・なくなったんだ!)
彼女は、改めてその時決意した。
そして、彼女たちは帰路に着いた。
カナをアパートまで見送ると、エリー、ティア、ミリアが帰っていく。
ミリアが最後に、カナのほうを振り返った。
カナはミリアを見つめ、ただ頷いた。それだけだ。
彼女は自分の部屋に戻り、荷物を置いてからカップを2つ出す。
それにお湯を注ぎ、レモンティーのパックを入れてテーブルに置いた。
5分ほど経っただろうか。玄関のチャイムが鳴った。
カナはパックを回収して捨てると、玄関に向かう。
鍵は開けっ放しだ。彼女はノブを回してドアを開けた。
「いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
そういって、来訪してきたミリアは中へと入る。
「上がっていって。紅茶いれといたから。」
「あぁ、ありがとう。」
カナはいつもと変わらぬように装っていたが、内心心臓が破裂しそうだ。
仮にもアンブレラの関係者なのだ。しかし・・・彼女は。
(彼女は友達だ。アンブレラにいるのは彼女じゃない。ジョーカーなんだ。)
そう自分に言い聞かせ、落ち着きを取り戻す。
そして2人でテーブルについて無言のまま紅茶を飲むと、もう完全に普段の自分を取り戻していた。
「ちゃんと来てくれたんだ。ありがとう、ミリアちゃん。」
「ん・・・うん。」
打って変わって、ミリアはまだ緊張しているようだ。
彼女らしくない、とカナは感じた。普段の彼女はこんな弱い人じゃない。
誰よりも強くて、誰よりも賢くて、誰よりも冷静で。
そして誰よりも優しい、それがカナの友人の、ミリアだ。
だが目の前にいる彼女はすまなそうに俯いているばかりだ。
今までの面影が見られない。酷く弱い存在。
カナはそれを見て、自分がこれから話す事がとても悪いことなんじゃないかと思った。
彼女にとってはいいことではないだろう。しかし、それでも。
カナはミリアに、問いかけた。
「単刀直入に聞くね。あのさ、私と一緒にいた人・・・生きてるよね。」
ミリアは答えない。だがそれは答えだ。
カナはさらに続ける。
「まだ、病院の地下にいるの?それとももう移動しちゃったの?」
「・・・カナ。あんた何を・・・。」
「質問してるのは、私だよ?」
カナはいつになく強気だった。
何故か分からないが、とても気分が悪い。
イライラして、感情的に言葉が出てしまう。
そんな彼女に気圧されたのか、ミリアは黙ってしまった。
「質問に答えて欲しいな。私、困るんだ。」
少しして、ミリアがようやく重い口を開いた。
「・・・あぁ、まだ地下で、生きている。起きてないけどね。」
「どういうこと?」
ミリアはいつのまにか、普段の彼女に戻っていた。
答えることで吹っ切れたのか、真っ直ぐカナを見据えた。
「あの時、カナと一緒に連れてった時からあいつは寝たきりだ。心臓は動いてるし、呼吸もしているけど・・・眼を覚まさない状態。まぁ、あの傷じゃ当然だけどね。」
「そんな・・・。」
「死んでてもおかしくないんだよ。だから、私が楽に──」
カナはその言葉に、テーブルを叩いて威嚇した。
ミリアが言葉に詰まる。2人の間に沈黙が流れる。
「それ以上言ったら、私怒るよ。」
「・・・ごめん。」
少々言い過ぎたと思ったのか、ミリアは再び勢いをなくす。
カナ一度深呼吸すると、恐らく据わっていただろう目つきを戻す。
「話し、変えるね。ミリアちゃんは・・・いつからこんな仕事を?」
「話せば長くなる頃から。少なくてもカナと会った時にはとっくに。」
「そう・・・好きでこんなことしてるの?」
「今は好きでやってる。昔はそうでもなかったよ。」
ミリアの言葉は、冷たいものが混じっているように聞こえた。
どうやらあまり触れて欲しくない内容なのだろう。突き放される。
「カナ、私からもいいかな?」
「・・・いいよ。」
ミリアはそういうと、今までに無いくらい恐ろしい目つきでカナを見た。
「もう、アイツのことは忘れるんだ。じゃないと後悔するよ。」
カナの背筋に悪寒が走る。
初めて感じた。これが殺気というやつだろうか。
確かにそれは、自分に向けられていた。
しかしこれは・・・ただの脅しだ。
「ありがとう。でも、それは断るね。」
「カナっ!」
ミリアは大声を上げて彼女を睨み付ける。
しかし、カナは臆することなくミリアを見つめる。
彼女は、笑っていた。それがミリアにはとても気に食わなかった。
「なんで、なんで笑うんだ!そんなに私変なこと言ってるの!?」
「違うよ。ミリアちゃんは、正しいことを言ってる。それはわかる・・・けど。」
カナはミリアを落ち着かせるように、なだめるように言った。
「そんな、単純じゃないの。私は彼が必要なの。傍にいて欲しいの。
ただの自己満足だけど・・・彼の手助けをすることで、私の罪を償うことが出来るの。」
「罪・・・?何を言ってるんだ、カナ。」
「私は罪人なの。私のせいで、大切な人が・・・いなくなっちゃったの。」
カナは眼を閉じ、過去の記憶を呼び覚ます。
もう2度と開かないだろうと閉じていた記憶の扉をゆっくりと開いていく。
そこにいるのは、白い服を着た黒髪の少年。
自信たっぷりの笑顔。恥ずかしがる時はすぐに話を逸らす癖。
人をからかうのが大好きなのだが、優しい少年。
歳は確か1つ上だったはず。1人だった自分に、優しくしてくれた。
カナはゆっくりと眼を開けた。その瞳には悲しみが宿っていた。
「私が殺した。私が、彼を殺したの。だからもう・・・同じ想いはしたくない。」
「なんの話だよ、カナ・・・あんたが人殺しなんて、嘘だろう?」
ミリアもさすがに戸惑っているようだ。
急な話なのだから仕方が無い。
「ごめんね、もう決まったよ。私に力は無い・・だけど、私は私のやり方で、ファイブさんを助けに行く。じゃないと私は、後悔するから。」
「カナ・・・考え直すんだ。あんたは今錯乱してるよ、絶対。
言ってることが支離滅裂で破綻してる。」
「私は落ち着いてるよ。大丈夫、何も準備せずに乗り込まないから。」
「だから、カナってば!」
ミリアはもう彼女を脅そうとはしなかった。しかし、その叫びは悲しいものだ。
ミリアからしたら、彼女がやろうとしていることは自殺行為だ。
肉親が働いているからといって、無事ですむはずがない。
今回は運が良かった。だが次は絶対にない。
捕まれば実験台にされ・・・彼女という存在は、死んでしまう。
そんなことは、絶対に避けなければならない。
最後の手段にと、ミリアは腰からナイフを抜き取った。
ミリアは一瞬でテーブルに駆け上がると、彼女が座る椅子ごとカナを押し倒す。
「きゃっ!」
カナは短く悲鳴を上げて床に倒れた。その上にミリアが乗り、彼女の右腕を掴んでナイフを向けた。
少しでも腕を動かせばナイフが突き刺さるという距離だ。
「カナを無駄死になんかさせない。少し痛いけど・・・死ぬよりマシだ。
両腕を・・・しばらく使えないようにさせてもらう。」
実際のところ、これもただの脅しだ。
カナを傷つけるなんて、ミリアにはできない。だからこれで諦めてもらうしかない。
どんな人間でも、自分の身は大切だ。こう脅されたら屈するしかない。
だが、カナは、自ら右腕を上げていった。
彼女の右腕にナイフが僅かに差し込まれる。
「カナっ!?」
ミリアは突然のことに驚き、ナイフをすぐさま腕から離す。
脅しだとばれていた?違う・・・そうじゃない。
「いいよ、私は両腕なんかいらない。ファイブさんがいれば、何もいらない。」
「カ・・・カナ・・・。」
ミリアはその場で座り込み、ナイフを床に落とした。
「ありがとう、切られなくて助かったよ。ちょっとだけ不便になるからね。」
そういいながらカナは立ち上がり、腕を押さえながら自室へと向かった。
手提げのバッグだけを手に、玄関に向かう。
「私、行くね。鍵は掛けなくていいから。」
放心状態のミリアにそういい残し、彼女が靴を履く。
玄関から出る時、ミリアの背中を見つめながら呟いた。
「ごめんね・・・ありがとう。」
ドアが閉まり、微かにコンクリートの床を歩く音が聞こえる。
それも次第に聞こえなくなり、静寂に包まれる。
ミリアは1人、悲しみに打ちひしがれていた。
こんなにも・・・こんなにも強く、カナの心に根付いているのか。あいつは。
絶望の中、芽生えた感情は怒りと殺意。
「あいつが・・・カナを・・・私のカナを、殺したのか!」
ミリアはナイフを握り締め、立ち上がると同時に叫んだ。
「殺してやる、あいつだけは何があろうと・・・殺してやる!」
そうだ、殺そう。今すぐ殺そう。
今ならまだ間に合う。カナは準備してから行くと言った。
自分は病院に直行すれば、確実に先手を取れる。カナより先にあいつを殺せば。
先に殺せば、カナも諦める。そうだ殺そう。殺してしまおう。
最優先事項だ。他にはもう何も必要ない。
これからどうなろうとしったことではない。
上からの命令が何だというのだ。どんな罰だって受けてやる。
早ク、ヤツヲ、殺シニ、行カナクチャ。
カナは陽の落ちかけた街を歩く。
買い物は明日でも良かったが、今は家には居辛かった。
どちらにしろ準備は早いほうがいい。
私が行かなくては。他に彼があそこにいることを知っているのは、いないのだから。
自分には戦う力は皆無に等しい。この前は動きの遅いゾンビが相手だから倒すことが出来たが、今回の相手は人間だ。プロの人間相手に勝てる気がしない。
だから、自分なりの戦いをしよう。自分には、それしかないから・・・。
カナは念のために、近くのガンショップに足を運んだ。
使うことは無いだろうが、それでもだ。無いよりは心強い。
ケースに並ぶハンドガンを見ていく。そこに、Five-seveNは見当たらない。
彼を身近に感じることが出来る気がして、それが欲しかった。だがないのならしかたない。
次に目に入ったのは、M92FSというハンドガンだ。たしか昨夜、彼が使っていた。
それを購入すると、一目散に向かったのは敵の本拠地・・・ではなく、電気店。
今日攻め入るつもりは無かった。下準備が多いからだ。
カナがそれから自宅に戻ったのは8時を過ぎた頃だ。そこにミリアはいなかった。
「・・・ミリアちゃん・・・私たち、敵になるの?」
胸が締め付けられる想いだった。
ミリアは全速力で研究所に向かい、ファイブセブンが眠る部屋に向かった。
そこは病室のような部屋なのだが、正確には病室ではない。
ウィルスを投与した人間の行動パターンを知るために作られた部屋だ。
上の病院では一目が多い為、こちらで管理することにしたのだ。
ミリアが部屋に入ると同時に、部屋の端に置いてあるベッドに銃を向けた。
しかし・・・そこには誰もいない。そういえば、部屋の鍵も開いていた。
(どこに!?)
「何してるのかしら?」
突然背後から声を掛けられ、銃口を後ろに向ける。
そこにいたのはカズエだった。血走った瞳で、彼女に怒鳴りつける。
「ヤツは何処に行った!今すぐ答えろ!」
「殺すな、って命令のはずだけど?」
「うるさい!喋らないのなら貴様も殺すぞ!?」
ミリアは本気だった。脅しなど使える精神状態ではない。
それをカズエは理解したのか、少し離れた研究室を指差す。
ミリアはそこへ全速力で走る。研究室に入るとガラス越しに、
ファイブセブンの姿を見つけた。
その光景を見て、ミリアの殺意が徐々に薄れていった。
代わりに芽生えたのは、優越感だったのだろうか。
カズエが遅れて部屋に到着し、ミリアの隣に並ぶ。
それに気づいた白い防護服を着た者が、スピーカーを通して話しかけてきた。
『テンドウ副主任、ちょうど良かった。たった今検査結果がでたところです。』
カズエが頷く。防護服の者の顔は見えないが、口元が笑っている気がした。
ミリアの顔が醜く歪んだ。目の前の寝ている男を侮蔑するように。
今ファイブセブンが受けているのは、ウィルス感染の検査だ。
自分も受けたことがある。定期的に特定の社員はやるものだから。
そしてそれは・・・感染の可能性がある人間に主に行われる。
防護服の男が、頷いた。
『陽性です。』
───────────────────────────────── -intermission-#2
深く長い洞窟の先、広いドーム状の空間にそれを見つけた。
明らかに今までとは違う人工的な構造物。その前に、グロックとアレスは息を切らしながらも到着していた。
まるで突然そこに現れたかのように、不自然にそれは建っていた。
「冗談みたいな場所だね、こいつは。」
「どうやら・・・依頼は本物のようですね。」
ここにきて、グロックもようやく確信を口にした。
ただの遊びにしてはここまでに遭遇した化け物や、この建物は出来すぎている。
何かしらの大企業が関わっているだろう依頼なのだ。それも、相当危険な依頼。
「・・・まだ引き返せそうだけど?」
「引き返してもいいですよ。僕は行きますけど。」
アレスの言葉に、考える間も置かずに即答するグロック。
既に2人の装備は心もとなく、ショットガンは破壊され、アサルトライフルも弾切れの始末だ。
正直しんどいのは同じだった。だが、好奇心がそれを抑制する。
ここまできてしまった。見てみぬ振りはしたくない。いや、できない。
もっと深くまで飲み込まれたい。この、底知れぬ闇の中に。
「強いね・・・ボク1人じゃ帰れそうにないし、付き合うとするよ。」
「それはどうも。」
グロックはハンドガンGLOCKを構え、建物の入り口へと向かった。
その後ろにアレスも同様にハンドガンのワルサーPPKを構えながら歩く。
近づくにつれて、建物の状態が鮮明になっていく。
廃棄されてからもう大分経つようだ。破損が多い。
恐らくあの化け物の仕業なのだろう。もしくは・・・廃棄される時に、何かが起きた。だから廃棄されたのだろうか。
ともかく、その答えは恐らく内部にある。
グロックは誰かに見られているような錯覚に警戒しながらも、着実に前に進む。
入り口まで残り僅か。そのとき、背後で石が転がる音が響く。
2人はゆっくり振り返る。
あの、首の長い異形の化け物だ。ここまでに7匹倒した。
まだいたのか、と2人は思った。
だが今はまともに戦闘出来る気がしない。逃げられるならそれにこしたことはない。
目の前には得体の知れない建物の入り口。後ろには異形の化け物。
進む道は、とっくに決まっていた。
「ばれてないようなら・・・ゆっくり音を立てずに。」
「わかってる。」
2人は化け物を見ながら、後退して入り口を目指す。
化け物は気づいていないようだ。このままなら中に問題なく進める。
そして内部へのドアを目の前にして、2人はドアの方に視線を向ける。
ガラス張りのドア、そこに得体の知れない化け物がまた1匹。
今まで戦闘してきた首長の化け物ではない。巨大な大型猛獣・・・のようにも見える。
その姿は不自然極まりない。前足だけが肥大化し、本来は口に当たるものは、今では異界への入口かのように大きく開けられていた。
人間1人くらい丸呑みにできるほどだ。
「やばっ・・・!」
グロックは化け物がこちらに気づいてると察すると、アレスを横に押しながら自分も飛び退いた。
化け物は入り口を突き破り豪快に彼らのいた場所を巨大な口で噛み砕いた。
地面は抉れ、そいつは気にする様子もなく湿った土を飲み込む。
「はは、髄分と悪食なんだね・・・。」
「グロックくん、向こうにも気づかれた!」
アレスはそういいながら、首長の化け物を指差す。
この武装で巨大な猛獣を2匹も相手にしなければいけなくなったようだ。
ただの猛獣でも大変なのに、さらに凶悪な生き物を。
グロックは覚悟を決め、目の前の猛獣に銃口を向けた。
しかし次の瞬間、2人は奇妙な・・・そして聞いたことのある音を耳にした。
個人携行できる最大威力の火気の発射音。
それを確認するよりも早く、2人の前にいた猛獣が爆発し、吹き飛んだ。
文字通り木っ端微塵だ。通常、生物に向かって撃ち込む武器ではない。当然の結果だろう。
その、”ロケット弾”が飛んできた方向を2人は見た。
研究所の、割れた窓ガラスの一角。そこにランチャーを持つ黒服の男が佇んでいた。
(あいつ・・・か?)
グロックが咄嗟に思ったのはクライアント(依頼者)だ。
そしてその考えは当たっているだろう。
男は一瞬だけ2人を見ると、建物の中に引っ込んでしまった。
「・・・って、もう1匹は放っておくのか!」
グロックは助力する気のない男に怒りながら、後ろを見る。
首長の化け物はもう10メートルない位置まで接近していたようだ。
「応戦しよう!」
「わかってる!」
アレスが先に発砲し、化け物の気を引き付けた。
その隙にグロックは化け物に狙いをつけ、脳天めがけて引き金を引く。
彼のハンドガンがフルオートで弾丸を吐き出し、その多くが狙い通りに被弾する。
化け物は立ち止まり、悲痛の叫びを上げた。だが、脳に直接弾丸を浴びたにもかかわらずそいつの息の根は止まらない。そのくらい既に承知の上だ。
化け物は次にグロックに顔を向けた。しかし、それが運のつき。
アレスはハンドグレネードのピンを抜き、化け物に向かって投げつけた。
元から彼のほうへ向かっていたのだ。大した距離はない。そして今は動きも止まっている。
「Good night!」
アレスが呟くと同時に、化け物の頭部付近でグレネードが爆発。
無数の金属片が頭部に突き刺さり、流石の化け物も息絶えた。
合流した2人はすぐに建物の中に入っていく。
依頼者に会うために。暗く深い、闇の巣窟へ。