勇気とは、恐怖に対する抵抗であり、恐怖の克服である。
だが、恐怖心がないわけではない。
──マーク・トゥエイン
FirstDay
〜The Girl〜
静寂の中、私は夢を見ていた。
夢なのに現実味が溢れすぎていて怖い。
何故なら、夢の舞台は私の住む街だからだ。
だけど見たことがない場面。だからこれは予知夢なのかもしれない。
見たことの無い男の子と、一緒にショッピングモールに行き、私のお小遣いでは絶対に買えない洋服を買ってくれている。
きっとお金に余裕のある人なんだと思う。こういうのも何だが、結構美形。
・・・自分には相応しくない相手だと思い、やはりただの夢だと思う。
そろそろ夢も覚める頃だろう。そんな気がする。
良い夢見させてもらったと感謝しようと思ったその時、異変が起きた。
彼が、私の左腕を見る。私の視線は動かない。
彼は驚いたように私の腕を掴んだ。やはり私の視線は動かない。
彼が私の顔を見た。彼が動いたのはソレで最後。
彼の首筋から、真っ赤な何かが飛び出し、首は冗談にもならないくらい血を噴出し、飛んでった。
床に落ちた首がこちらを見つめている。
何かを訴えているようだ。それが、頭の中に響いてきた。
─オマエガ殺ッタンダ─
「キャアアァァ!」
息を切らしながら、少女が起き上がった。
彼女がいるのは質素な部屋の、ベッドの上。
左腕を見るが、なんともない。いつも通りの普通の腕だった。
「・・・嫌な夢見た。」
リアルな映像に、吐き気さえ催す。
思い出したくもなかった。早く忘れてしまえば楽になるだろう。
ベッドから抜け出し、部屋の明かりを着けた。
今日は学校がある日だ。いつも通りシャワーを浴びて、朝食を軽く済まして行けば間に合う時間だった。
(シャワー・・・長く浴びたいな。)
それもやや冷たいものを、と彼女は考えた。
夏休みも間近。少しくらい遅れても何も言われないだろう。
そんなルーズ気味な予定を決め、彼女は浴室へ向かった。
「グッモーニン、カナ〜!」
「あ、おはよう〜。」
ホームルームが終えたと同時に教室に入った彼女に、友人がすぐ気づいた。
それと同時に教室にいた担任が彼女を見る。
「ちょっと遅いですよカナさん。もう少し早く来なさい。」
「すいません、寝坊してしまったもので。」
軽く担任に会釈して、自分の席へ向かう。
っと、先ほど挨拶してきた女子が彼女の席に来た。
「珍しいねぇ、カナが遅刻なんて。本当に寝坊?」
勘が鋭い。起きた時間は定刻通りだったのだし。
「う〜ん、ホントは嘘だよ。ちょっと長くシャワー浴びちゃったの。」
「うわ、カナがサボりとはどうしたことか!雪でも降るかな?」
「・・・夏なのに?」
彼女が首を傾げる。その仕草に友人の女の子が笑った。
馬鹿にした笑いではない。安堵した時のいつもの笑顔だ。
「いや、よかった!冗談が通じない辺りいつものカナだね。心配したよ。」
「どういうことかなぁ・・・。」
「いやいや、あんたの全く意図してないツッコミが私は好きよ。
あ、それよりホームルームで言われてたんだけど、昨日また出たらしいよ。」
そういう友人の表情は、少し固いものだった。
「えっ・・・例の失踪者?」
友人が頷いた。
「一年の男子らしいよ。」
最近多発している連続失踪事件。それだけならニュースでもたまにやるが、今回の事件は見て見ぬフリは出来ないものだった。
なにせ、被害者はいつもこの学校の生徒なのだから。
今回で三人目になるのだろう。最初は二年生の女子。
次が三年生の男子。今回は一年の男子らしい。
全学年起きていることから、無差別な犯行なのだろう。
三人の共通点もとくになさそうだった。
「怖いね・・・今期で学校くるのも後一週間なのに。」
「全くだよ、最初はどこの変体野郎かと思ったけどさ、男子が二人も被害でたし。犯人は女子かなぁ、って思うよ。」
「そうかなぁ?」
「まぁ、私らが被害にあわないように気をつけようね。」
「うん。そうだね。あ、私そろそろ移動しなきゃ。」
一時限目は別の教室に行く生徒と残る生徒がバラバラになる。
彼女は移動する側の授業だ。
「そんじゃ、またねえカナ。」
「うん、またね〜。」
四時限目の終了の鐘が鳴る。昼休みの時間だ。
「カナ〜。一緒に食べよ〜。」
「うん、いいよ〜。」
彼女は手作りのお弁当を持ち、友人たちが集う席へと移動する。
「カナちゃんのお弁当いつもながら美味しそうねえ。」
「ありがとう。でもミリアちゃんなら作れると思うよ?」
「えぇ〜、無理だよ私じゃ。スクランブルエッグ焦がしたもん。」
その言葉に、朝の女子が顔をしかめる。
「いやいや、あんたそれは下手とかじゃなくて余所見しすぎ・・・。」
「ミリアちゃんの料理はクソ不味いんだよ〜。」
「ひ、酷いなティア・・・。」
いつもの昼ご飯のメンバーは四人だ。
朝から元気な姉御肌。エリー。
頑張れば何でも出来るけど頑張らない秀才。ミリア。
超家庭的でのんびり系の毒舌使い。ティア。
そして日本人在学生。カナ。
クラスで仲の良い四人組みだった。
カナがこの学校に転入してきたのは一ヶ月前のことだ。
家の仕事の事情で、家族全員でアメリカのこの”セント・ブリーズ”に引っ越してきて、この高校に通うことになった。
この”サン・フォレストハイスクール”は介護や医療の授業に力を入れているようで、介護系のクラスがあり、カナ達の一般のクラスでもたまに授業があるのだ。
始めは緊張していたカナだが、英語は得意だったし英会話もやっていたので彼女はすんなりとクラスに溶け込むことが出来たのだ。
四人で話しながら食事をしていると、男子が一人彼女たちに近寄った。
「話し中悪いけど、ティアさんちょっといい?」
「えっ?かなりダメ。」
「早っ!」
男子の誘いを、二言で断るティアは、何事もなかったように食事を続ける。
素早いエリーのツッコミさえ、彼女にはなかったことのようだ。
よって男子の存在も既に抹消されていることだろう、彼女の中では。
ティアはかなり美人だし、性格もおっとりだし、何でもそつなくこなす。
理想の女性がいるとしたら割とこんな感じだろう、という女の子なのだが、それらは全て”毒舌がなければ”の話しだ。
マイペースで在るが故に、自分の興味対称意外かなりクールなのだ。
男子から声が掛けられることもよくあるが、いまだに付き合ったことはないらしい。
トボトボと去っていく男子の後姿が悲しい。カナが苦笑しながら見ていた。
「あ・・・そういえば次の時間体育だよね。めんどくさいなぁ。」
「えー、私は良い運動になるし好きな授業だけどなぁ。」
エリーは根っからな体育系なため、ミリアの発言を否定した。
「ミリアちゃん今日はバスケットだよ?得意じゃなかったっけ。」
カナが先週の体育の、バスケの授業を思い出しながら言った。
彼女は”しょうがないな”と言って、スリーポイントを連続で入れたのだ。
「あ〜、あれはねぇ。延長戦になりそうだったから早めに終わらしたの。」
「面倒だから?」
「そういうこと。カナちゃんも楽して人生送ったほうがいいよ。」
「こらこら、ウチの嫁に変なこと吹き込むな。」
エリーがカナを抱き寄せながら反論した。
「えっ、私エリーちゃんのお嫁さん候補になったの?」
「ちょっ、冗談だって!」
エリーがカナから離れる。ミリアとティアが笑い出した。
放課後になり、生徒が帰り始める。
最近は失踪事件が起きているため、学校に残るのは禁止されている。
夜遅くの外出も注意されはじめているようだ。
「カナちゃん、今日はお買い物ですか?」
カナが帰り支度を済ませていると、ティアが声を掛けてきた。
「うん、今日まとめて材料買っておきたいなって。どうしたの?」
「えっとねえ、これからエリーのお家で遊ぶんだけどこれるかなぁって。」
「へっ?私も行っていいなら・・・行きたいけど。」
「じゃぁ決定だね!買い物付き合うよ〜。」
エリーとミリアが支度を済ませたらしく、二人も彼女の席に来た。
「荷物持ちはエリーがよろしくね。私非力なんで。」
「嘘こけ!ティアに逆恨みした男子ぶっ飛ばしたのは何処の誰だ!」
「えっ、えっ、そんなことあったの?」
カナがミリアの顔を見ながら問う。本人はいつも通りとぼけているようだ。
ともあれ、四人でカナの買い物に行くことになった。
四人は並んで教室を出て行った。
自宅に到着したのは、午後七時を回った頃だった。
買い物を終えてエリーの家についてから、四人でしばらく話していた。
途中エリーがゲーム機を持ち出し、四人対戦のソフトをやったのだが、日本にいた頃やったことがある物だが中々勝てなかった。
持ち主のエリーはともかく、何故かミリアが最高成績だった。
どうやら、エリーの家でよくやるらしい。三人とも慣れてしまったようだ。
ミリアがハメやコンボを繰り出すと、ティアが
”そんな戦法を取るなんてミリアの料理より汚いよ〜。”
と精神的にくる言葉を浴びせていた。
本人は慣れているらしく、そんなもの気にせずそのままティアの扱うキャラクターをエリア外まで吹き飛ばしていた。
いや、よく考えると本人は気にしているので、吹き飛ばしたのかもしれない。
その辺りの事情はカナにはわからなかった。
とにかく、今日は楽しかったと、カナは家について思った。
放課後に家にあげさせてもらったのは初めてだったのだ。
外で一緒に買い物などはしていたが、引っ越して初めて人の家に上がった。
(また遊びにいきたいなぁ。)
そう思いながらキッチンへ向かう途中、電話に伝言が残っているのに気づいた。音声を再生すると、声は母親のものだった。
『明日は定期健診の日ですから、遅れないようにしてください。
その時に生活費も渡すので到着したらスタッフに声をかけてください。』
それは、あまりにも母親からの伝言とは思えない話し方だった。
血が繋がっていないわけではない。間違いなくカナの母親だ。
しかしカナは現在一人暮らしと同じ生活している。仕事場から両親ともに戻って来ていないというだけで、別の家があるわけではない。
日本にいた頃育児放棄ということで、国の人が尋ねてきたこともあった。
結局状況は良くならないまま、調査は終わってしまったらしい。
カナ自身、親が恋しいと思うことはなかった。
むしろ、両親が怖かった。会いたくなかった。
二週間に一度の定期健診が憂鬱だった。
(行かなきゃ・・・ダメなのかな。)
自分自身、健康体のつもりなのだが何かの病気にかかっているらしく、定期健診が行われている。何でも新種の病原体らしく、現在の医療では促進を抑えるのが限界なのだと、母が言っていた。
嫌なことを忘れるために、すぐに夕食の準備に取り掛かった。
「おはよう・・・。」
「おはようファイブセブン。しかしこの時間に”おはよう”ですか。」
そういって、デスクワークに勤しむ眼鏡を掛けた中年男性が応えた。
そんな反論を受けながらも、目をこする少年は欠伸を一つ。特に応えない。
彼の態度を見ても、中年男性も特に気にした様子はなく、そのまま作業を続ける。とっくに慣れているわけだ。
「仕事、入ってる?」
「えぇ、明日の依頼ですけど。」
「・・・そんな急なら起こしてよ。」
「とても気持ちよさそうに寝ているもので。やめときますか?」
そこで会話が終わる。少年は溜め息をついた。
そんな彼を見て、別のデスクから笑い声が聞こえる。
「自業自得だね、ファイブセブン。」
「うっさい、笑うなチビガキ。」
っと、同時に金属製のデスクが大きな音を立てた。
恐らく、平手か本でデスクを叩いたのだろう。
「今何か言った?」
「イイエベツニ。」
殺気は治まらない。別に治めてやるつもりもない。
「ん〜・・・仕事、受けるよ。最近暇だったしね。」
大きく伸びをして答えた。
っと、中年男性は彼を手招きした。
彼の操るパソコンを覗き込むと、仕事の内容が事細かに表示されていた。
「あ〜・・・どれどれ。」
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日時:1999年7月12日
依頼者:SUN
依頼日時に四番地のアンブレラコーポレーションの地下研究所に潜入し、
研究内容の奪取を依頼する。研究内容の指定はない。可能な限り多くの
情報を奪ってきて欲しい。報酬は最低で100万。最高で500万まで出す。
情報の受け渡しは7月12日の23時に七番地の公園で受け取る。
いい返事を期待している。
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「お〜、ただの潜入にしては良い金額出すね。どっかのライバル企業か?」
「そうですねぇ。”傘”に対して”太陽”とは敵対心剥き出しですね。」
「日傘だったらどうすんだか。」
夕食を済ませ、シャワーを浴び、寝る仕度を済ませたカナはもう寝るだけで一日が終わる・・・はずだった。
しかし今日は、たまに試みる事を今日もやろうと、ベッドの前にパソコンの前に座る。電源をいれ、十数秒でデスクトップまでついた。
「ターゲッティング・・・スキャン完了済み。ソフトウェア、OS・・・確認。ファイヤーウォール突破。リモートアタックによる
ルート権限の奪取成功・・・出た。」
高速で彼女はプログラムの実行とキーボードを叩き込み、彼女の画面には一般人では見れない情報が記された画面が現れていた。
それは、会社の物品の納入や人事の情報。研究内容まで様々だ。
「もう何度もやってるから・・・ここまでは慣れてきたな。」
カナは、様々なファイルを開いては目を通していった。
「お母さん・・・お父さん・・・貴方たちは、何をしているの?」
彼女の目的は、それだけだった。
それが知りたかった。
両親の愛情が欲しいとは思わなくなった。そりゃ、昔は思ったけど。
次第にそれも薄れ、次に芽生えたのは、自分の育児を捨ててまで一体何の仕事をしているのか、という疑問だった。
ただの仕事熱心なだけかもしれない。
しかし、カナはそうじゃないと思っていた。
もっと重要な、何かなのだと。
それが分かれば、両親を許そうと思っていた。もちろん内容によるが。
日夜暇があればパソコンに詳しくなろうとした。
直接聞いても答えてくれない。いや、答えてくれたのは嘘だったのだ。
だから間接的に。誰にも気づかれずに、こっそりと。
年月が経つと、色々な知識が頭に入ってきた。
彼女がハッカーとして目覚めたのは一年前。
最初に侵入したのは、友達のパソコンだった。
次に中小企業、大企業と膨れ上がり、今は両親の勤める会社を調べている。
しかし一筋縄ではいかなかった。大企業の情報も集められたのに、両親の会社はさらに上を行ったセキリティのようだ。いわゆる、最先端。
それでも何度もクラッキングを試み、入り込んだ。
しかし、何度忍び込んでも手に入る情報は彼女の満足するものではなかった。
「違う・・・私が欲しいのはこれじゃないの。もっと、深くにある研究。」
今日も骨折り損に終わろうとしていたとき。
最新のファイルがあった。気まぐれでそれを開いてみる。
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研究対象CB3−0058の移送について
第3研究所の研究内容のファイルとサンプルが明日の午後4時頃届く。
受注担当者は研究主任の天童=実氏にお願いします。
本日のサンプルは完全に移植が成功したモノで、満足してもらえると
思います。これからも研究費の方宜しくお願いします。
第3研究所研究主任
リチャード=マクレイン
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「天童・・・実?おとう・・・さん・・・?」
そこに記されていたのは、間違いなく、カナの父親の名だった。
「第3研究所からの納品・・・でも、お父さんたちの会社系列はこの街に一つしかないはずなのに・・・どういうこと?」
っと、その時。
突然接続が切れ、全てのシステムがダウンしてしまった。
「やばっ!ばれた・・・!?」
彼女は覗く度にログを消しているのでログから追跡されることはないが、ばれた事によりセキリティが強化される可能性があった。
パスワードなども変更されるだろう。
「・・・今日はもう、寝よう。」
電源を落とし、ベッドに潜り込む。
(明日・・・何かの研究対象が、届けられる。)