【第1話】

 1998年12月28日、米国時間17時28分、南極で起きた大爆発は氷河を溶かし、かつて人々が恐れていた地球温暖化現象の恐怖は、未曾有の形となって世界を襲った。
・・・ニューヨークは死の町と化し、巨人の如く聳え立つ高層ビル群は、人工の廃れたマングローブへと変貌した。

世界的な大災害を齎したこの事件は、世界の大地の約17%を飲み込んだ。

・・・そして、1999年、誰もが予想しなかったアンゴルモアの大王の早き目覚めに人 々は神を信じることすら叶わぬ運命(さだめ)を知り、そのせめてもの「絶望」の辻褄合わせとして、様々な「魔王」をこの世界に召喚した。

〜ストーン・ヴィルの住人〜

 ・・・本当だって。信じてくれよ。俺はこの目で見たんだ。え?ああ、怪物だよ。なんだ かワニみてぇな肌をしていやがった。そうだ。お前はあの時一緒にいたんだもんな。

 その初老の男は今も尚、死に物狂いの顔で同じく初老の仲間たちと、木造の小屋で近況報告をする。

「もっと落ち着いて話せよニール。んで?そのノストラダムス様の空想の産物がどうしたっ てんだ?」
一人の男は全く信じていない調子で、おどけて見せる。やはり、といった感じでその受け答 えに、二ールと呼ばれた男はは憤慨する。
「・・・いいや。あいつはワニなんかじゃねぇ。手もあって、二本足で立っていて、そして 性悪なおんなみてぇな声でギャーギャー喚くんだ。あいつぁ今まで見たことねぇ」
老人二ールと付き添っていたと言う男は証言した。
「・・・あああぁ・・・わしの孫はそいつに喰われたんじゃろうか・・・」
その言葉を聞き、小屋の隅にいた気弱な老人は絶望を痛感する。

 ・・・なんだか物騒な建物だった。軍用車が幾つかあったな。でもな、建物は完全に閉め 切っていた。だが糞みてぇな生臭いニオイはプンプンしていたのはこの鼻にしっかりと染み 付いていやがるぜ。
「そうしたら、建物と窓の隙間から、ヌ〜ッ、とな・・・」

・・あぁ。絶対忘れねぇ。あれは大王の使いだ。この世を偵察しに来たんだ。

「ハッハッハッ・・・このお星様を偵察に来たスパイがワニで、ゴリラで、家畜ときたか。 とんだエイリアンだぜ!」
「あのなぁ!こっちは真面目に話してるんだぞ!」
「ハハ・・悪い悪い。最近暑くなってから随分笑い草が無くなってな・・・」
男は、さすがにこれ以上はからかう意味が無いと感じた為、咄嗟に怒りを治めにかかった。

  その後4人は、それぞれの不安をそれぞれの口から語った。救援物資の不足・・・。強奪屋の徘徊・・・。種は尽きなかった。

・・・1時間後、小屋は持ち主である、二ールの言葉を否定した楽天的な男のみとなった。

「ふぅ・・・。やっと帰りやがったか。あの腰抜けどもめが」
男の顔は、安堵と共に狡猾な表情に満たされる。
「さぁ・・・そろそろ“飢える”頃だ・・・」
男はそう言うと、床にへばり付いている蓋を開け、地下の倉庫への道を繋ぐ。
男の靴が階段 の段差を踏みしめる度に、高級な音が地下へと反響してゆく。
果たして地下には一人の若い女がいた。女の瞼は閉ざされており、意識は闇の中へと落ちて いる。

・・・そして、もう戻ってくることは、無い。

「おっと、糖分が不足しているようだな。やつの孫だ。丁寧に扱わねばな」
女は恐怖に支配されたのか、地下倉庫には甘い匂いが漂っていた。

「クリスティーン嬢。私は満足で御座います・・・」

男は、1本の注射針を手にした。

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